「売って終わり」の不動産事業から、資金が循環する事業へ。LEVECHYの事業転換と成長戦略
1. いままでのキャリアについて
「自分の城は自分でつくれ」。19歳から始まった経営者への道
私が不動産業界へ進んだのは19歳のときです。大学に進学したものの、父の体調不良をきっかけに中退し、働き始めることになりました。
父は金融業、叔父は不動産業を営んでいて、幼い頃から二人の経営者を見て育ちました。叔父は不動産の家賃収入などによって経済的にゆとりのある暮らしをしており、自然と不動産業界に興味を持ちました。初めての就職先も、ハローワークで見つけたオフィス仲介事業の会社でした。
中高生の頃に父へ「会社を継がせてほしい」と話したことがありましたが、返ってきたのは、「自分の城は自分でつくれ」という言葉でした。当時は少し突き放された気持ちになりましたが、今ではありがたい教えだったと思います。父も叔父も起業家でしたから、自分で事業を興すことは、私にとって自然な目標になっていました。
日系の不動産会社で経験を積んだ後、英国に本社を置く不動産会社の日本法人、サヴィルズ・ジャパンから声をかけていただき、日本での事業立ち上げに携わりました。社会人になって数年で独立するつもりでしたが、新規事業を立ち上げる経験は、起業前の勉強になると考えました。約5年間勤務した後、2012年にジャパン・プロパティーズ株式会社を創業しました。
当時は東日本大震災の影響が残り、外資系企業が日本から撤退するなど、不動産市場にとっても厳しい時期でした。それでも「これ以上悪い状況にはならないだろう」と考え、こんな時期だからこそ日本を元気にしたいという想いから、「ジャパン・プロパティーズ」という社名に決定しました。
オフィス仲介の知見を、一棟ビルの再生に活かす
オフィス仲介事業から事業領域を拡大し、不動産管理や売買、区分マンションのリノベーション再販にも取り組みました。比較的少ない資金で購入でき、売却までの期間も短いため、当時の事業規模で取り扱いやすいという特徴がありました。
区分マンションは基本的に個人のお客様に売却し、取引が終わります。一方、オフィスビルは、リノベーションを施して売却した後も、賃貸管理などを受託できる可能性があります。管理を受託できれば、売却益に加えて継続的な収益につながりますし、私たちが長年培ってきたオフィス仲介事業の知見も活かすことができます。
こうした特徴を踏まえ、自社の強みを最大限活かせる一棟オフィスビルの再生に舵を切りました。2020年は、現在のLEVECHYにつながる大きな転機だったと思います。
2. 会社や事業の紹介
得意な不動産事業に、「金融」という成長の仕組みを掛け合わせる
現在は、オフィス仲介や不動産管理事業、一棟ビルを再生する「JP-BASE」事業、クラウドファンディング事業「LEVECHY Fund」「LEVECHY Lending」の開発・運営などを展開しています。
「JP-BASE」は、「良いものをしっかり次の時代に残し、新しい物を取り入れていく」ことをコンセプトとし、これまでに一棟ビルやレジデンスなど、13棟の再生を行ってきました。
「JP-BASE」を通じて持続可能な社会へ貢献するとともに、当社もベンチャー企業であるため、同じようにチャレンジする方を応援していきたいと考えています。スタートアップなどのベンチャー企業は実績が乏しいため、入居審査が厳しく、物件を借りづらいという課題があります。
そこで「JP-BASE」では、入居審査に柔軟に対応するとともに、セットアップオフィスとすることで初期費用を抑えています。フリーランスや起業家の方など、チャレンジする方が事業に取り組みやすい環境を提供しています。
一方、「LEVECHY Fund」は、1口1万円から投資できる不動産クラウドファンディング事業です。不動産特定共同事業法に基づき、ファンドごとに特別目的会社(SPC)を組成する仕組みを採用しています。
この発想の原点は、サヴィルズ・ジャパン時代にあります。当時、欧米の年金ファンドや機関投資家が高度な金融スキームを駆使して日本国内の優良不動産を取り扱い、安定した運用を行っている現実を目の当たりにしました。当社も、不動産クラウドファンディング事業を始めるにあたり、その仕組みを採用しました。
3. 経営ビジョンと理念
「価値と資金が滑らかに循環する“次世代の金融インフラ”をつくる。」
2026年8月、私たちは経営理念を刷新し、「多様な資産に眠る価値を、金融の仕組みでひらき、新たな選択肢を社会に実装する。」というミッションを掲げました。目指しているのは、本来価値があるにもかかわらず眠っている資産や事業と、資金が滑らかに循環する社会です。
資金調達は、銀行などの金融機関から借入を行うことが一般的ですが、クラウドファンディングによって、個人投資家から資金を集める選択肢が広がりました。
私たちが目指すのは、単に金融商品を増やすことではありません。資金調達ニーズのある会社と、投資意欲のある人や会社を結びつける「次世代の金融インフラ」をつくることです。
事業の拡大によって利益や雇用が生まれ、地域や社会への貢献につながる。そして、そこで生まれた収益が投資家に戻り、再び次の投資へ向かう。そんな循環をつくりたいと考えています。
人としての誠実さ、成長への意欲、挑戦する熱量
組織の価値観として大切にしているのが、「人成熱(じんせいねつ)」というキーワードです。「人」は、誰に対しても敬意を持ち、謙虚さや感謝を忘れないこと。「成」は、常識を疑い、あらゆる経験から学び、成長を止めないこと。「熱」は、当事者意識を持ち、高い志と情熱を持って自ら行動することです。
AIなどの新しい技術が普及する時代だからこそ、礼節や思いやりなど、人にしかできないことを大切にしてほしいと思っています。私自身、仕事や人との出会いによって、今も成長させてもらっています。挑戦することも、学び続けることも、終わりがないと考えています。
この価値観は人事制度にも反映しています。理念はつくって終わりではなく、社員が日々理念に触れ、判断や行動に結びつけられてこそ意味があります。そのための伝え方や仕組みづくりに取り組んでいます。
4. 競合との差別化ポイント
約4年をかけ、投資家の信頼につながる仕組みを整える
当社は、不動産特定共同事業法に基づく第3号・第4号事業者として、ファンドごとにSPC(特別目的会社)を組成しています。「LEVECHY Fund」では、投資対象の不動産を運営会社から切り離す「倒産隔離」の仕組みを採用しています。
運営会社が不動産を直接保有する方式では、投資先の物件が健全でも、運営会社の経営破綻によって投資家の資金回収に影響が生じる可能性があります。案件ごとにSPCを設けることで、こうしたリスクを抑えることができます。また、金融機関からのレバレッジ(融資)を組み合わせる仕組みも採用しています。
不動産価値の下落などによる損失の可能性は残りますが、リスクをできる限り抑えた仕組みで事業を展開したいと考えました。
この仕組みを実現するまでには、許認可の取得や社内体制の整備などのハードルがあり、約4年をかけてサービス開始に至りました。事業を推進するうえで、スピード感を持って対応することは重要ですが、投資家の皆様に信頼される仕組みで事業を行うことを優先しました。
※倒産隔離は、投資元本を保証する仕組みではありません。
理解されにくい強みを、どう信頼につなげるか
一般的に、不動産クラウドファンディングの利用者が投資を検討する際に比較するのは、利回りや運用期間です。SPCを用いた「倒産隔離」の仕組みは、数字だけでは特徴が伝わりにくく、投資家の方に理解していただくことが課題の一つです。
短期的な成果を追うのではなく、SPCの仕組みを丁寧に説明し、実績と信頼を積み重ねる必要があると感じています。
5. 現在注力していること
出資型に加え、貸付型にも事業を広げる
今後の成長に向けて注力しているのが、金融サービスの選択肢を増やすことです。従来の「LEVECHY Fund」では、不動産を取得・運用するファンドへの出資という形で投資機会を提供してきました。現在は、貸付型クラウドファンディング「LEVECHY Lending」の展開も進めています。
「LEVECHY Lending」は、不動産担保ローンを投資対象とする仕組みです。不動産そのものに出資するのとは異なり、貸付から生じる利息などを収益の源泉とします。資金を必要とする側にとっても、従来とは別の資金調達の選択肢が生まれます。
事業の成長可能性や所有不動産の価値に対して、必要な資金が届き、循環する仕組みをつくりたいと考えています。
また、大口の投資家向けの「LEVECHY Plus+」、不動産ファンドの組成・運用を支援する「LEVECHY Pro」などにも取り組み、投資家と事業者のさまざまなニーズに応えられる基盤を整えています。
6. 今後の展望・挑戦
大きな資本を持たなくても、挑戦できる仕組みをつくる
数十億円、数百億円単位の大規模な不動産の投資機会は、機関投資家や富裕層など、資金力のある投資家に限られがちです。中小企業にとっても、資金調達の制約が参画のハードルとなる場合があります。
しかし、個人投資家から資金を集める仕組みがあれば、大規模な不動産への投資にも挑戦できるようになります。資金力の差を、資金を集める仕組みで補う。投資機会が一部の大企業や機関投資家に集中するのではなく、個人投資家にも開かれていく。私はそこに、不動産と金融を掛け合わせる意味があると考えています。
将来的には、不動産に限らず、さまざまな資産や事業の価値を金融の仕組みでひらき、新たな選択肢を増やしていきたいです。
日本経済を強くするのは、大企業だけではありません。それぞれの地域で事業を営み、挑戦している企業が成長することも大切です。必要な資金が届き、新しい事業が生まれ、利益を生み、雇用が増え、地域が活性化する。その積み重ねを後押しする金融インフラになりたいですね。
7. 読者へのメッセージ
まず決断して、一歩動く。経営はそこからしか始まらない
これから新規事業や事業領域の拡大に挑戦しようとしている経営者の方に伝えたいのは、まず自分で決断し、行動することです。
綿密な事業計画を練っても、やってみなければわからないことはたくさんあります。完璧な答えを探して立ち止まるより、何をやるかを決めて、一つでも行動してみる。それが最初の一歩になると思います。
起業したときは、リスクを引き受けて挑戦したはずです。でも、会社経営が軌道に乗ると、どうしても守る方向に気持ちが向いてしまう。私自身も経営者として、そのような難しさは感じています。
どのくらいの事業規模を目指すか、幸せの価値観は人それぞれです。ただ、変化する環境のなかで何もせずに立ち止まれば、競争力は次第に失われてしまいます。大切なのは、起業したときの思いをもう一度奮い立たせることではないでしょうか。
私自身もまだ挑戦の途中です。2012年の創業も、2020年の事業転換も、4年かけたファンド事業の準備も、最初から成功が約束されていたわけではありません。それでも、決断をして、実際に動いてきました。
これからも挑戦をやめるつもりはありません。中小企業にも、それぞれの強みと可能性があります。そうした企業が次の一歩を踏み出し、事業を成長させていける社会を、私たちの金融の仕組みを通じて支える一助になりたいと考えています。