マシンピラティスを生活の一部に。YUZU 代表 坪井里奈が届ける「通えるピラティス」のかたち
1.いままでのキャリアについて
大学卒業後、新卒でEC通販会社に入社し、その後はアパレルメーカーの通販担当、広告代理店でのSNSディレクターなど、20代はWeb領域を中心にキャリアを重ねてきました。
転機になったのは、結婚・妊娠・出産を経て、産休・育休から復職したタイミングです。復職後はバックオフィス業務へ異動となり、仕事内容が自分の性格に合わないという違和感が、徐々に大きくなっていきました。単調な業務をこなしながら、当時生後7か月の娘を保育園に預けて働く日々。そんなある日、ふと娘の顔が浮かび、「この気持ちのまま働き続けていていいのだろうか。子どもに堂々と背中を見せられる母になれているだろうか」と強く思ったんです。
そんなとき、通っていた小顔サロンの技術に感動し、「同じ悩みを持つ方にこの技術を届けたい」と考えるようになりました。民間資格を取得し、フリーランスのセラピストとして独立したのですが、ありがたいことに予約が次々と入り、気づけば365日働いているような状態に。子どもとの時間を柔軟に作れると思っていたのに、現実はまったく逆でした。
そこで「自分が稼働していなくても売上が立つ仕組み」をつくる方向へ舵を切り、法人化して従業員を雇用。恵比寿にサロンを出店し、代官山にも展開しながら、小顔サロン事業を約4年間運営しました。
その流れの中で、お客様から教えていただいたのがマシンピラティスです。体験レッスンに行ったとき、呼吸とともに心と体が内側から整っていく感覚があり、これまでジムに通っては挫折を繰り返してきた私が、初めて「続けたい」と思えました。
ただ当時のマシンピラティスは、1回あたり1万2,000〜1万3,000円ほどと高単価で、パーソナルといってもグループレッスンの片隅でマシンを使う形が多かった印象です。せっかくなら完全個室で集中できる空間で受けたい。でも当時の私にとっては「子どもを預けて一人で通う」こと自体が現実的ではありませんでした。子連れで通えるスタジオも、ほとんど見つからなかったんです。
ならば、私と同じ状況の方はきっとたくさんいる。完全個室で、マンツーマンで、できれば子どもも連れて行ける。そんな環境が全部そろった場所を、自分でつくろう。そう思って三軒茶屋で最初のスタジオを立ち上げたのが、パーソナルマシンピラティススタジオ「YUZU」の出発点です。
2.会社や事業の紹介
私たちは、パーソナルマシンピラティススタジオ「YUZU」を全国に69店舗展開しています(2026年2月時点)。強みは、完全個室でのマンツーマンレッスンです。
グループレッスンでは、どうしても一人のインストラクターが大人数を担当する形になり、一人ひとりに向き合える時間は限られてしまいます。せっかく「変わりたい」と思ってお金と時間をかけて来てくださるなら、きちんと体感や効果を持ち帰ってほしい。そう考え、私たちはパーソナルにこだわってきました。身体の状態だけでなく、その日の気持ちや体調にも寄り添いながら指導できるのが、完全個室のマンツーマンだからこそ実現できる価値だと考えています。
また、スタジオ運営とあわせて、インストラクター養成スクール「YUZU ACADEMY」も展開しています。私たちだけで完結するのではなく、DKピラティスさんと協業しながら、技術面の習得はもちろん、お客様一人ひとりに寄り添えるパーソナライズした指導ができる人材の育成を大切にしています。さらに、学びを学びで終わらせず、育成から現場での実践へとつながる道筋づくりにも力を入れています。
3.経営ビジョンと理念
私たちが掲げているビジョンは「マシンピラティスを生活の一部に」です。これは、私自身の実体験から生まれた言葉です。
独身の頃なら1回1万3,000円でも通えたかもしれません。でも家庭を持ち、子どもがいると、子どもを預けて一人で行くこと自体が難しい。ライフステージが変わると、諦めなければいけないことが増えていく。その現実を強く感じました。
だからこそ、どんなライフステージの方でも「この場所なら通える」と思えるスタジオを作りたかったんです。通うことが特別なイベントではなく、歯を磨く、お風呂に入るのと同じように、心と体をメンテナンスする時間が日常に組み込まれていく。マシンピラティスを、そういう存在にしたいと思っています。
この考え方は、お客様だけではなく、働く側にも共通しています。YUZUには20代から60代まで幅広い世代のインストラクターが在籍しており、本部メンバーも含めて、ライフステージとキャリアステージの組み合わせは人それぞれです。その組み合わせが変わっても、YUZUの中で自分らしく活躍できる環境を作りたい。私はずっとそこを軸にしてきました。
4.競合との差別化ポイント
私たちの競合との差別化ポイントは、提供している体験そのものにあります。ピラティスが広がる中で「通いたいけれど通えない」「続けたいけれど続かない」という壁は、まだまだ多いと感じています。だからこそYUZUは、最初から「続けられること」を前提に設計してきました。
まず大きいのは、完全個室のマンツーマンであることです。複数人で行うレッスンでは、進行や内容があらかじめ決まっていることが多いと思います。一方で完全パーソナルであれば、その日の身体の状態や目的に合わせて、オーダーメイドでレッスンを組み立てることができます。周りの目を気にせず、自分の身体とじっくり向き合える環境があるからこそ、必要な動きや負荷も一人ひとりに合わせられる。グループレッスンでは難しい「その人に合わせた体験」を、当たり前に届けたいと思っています。
次に、「お子様連れで通えること」も私たちにとっては前提です。全店舗にキッズサークルを用意しており、産後のお母さんや赤ちゃん連れの方にも多く通っていただいています。私自身が「行きたくても行けない」を経験したからこそ、ここは条件ではなく前提として設計に組み込み、他店との明確な差別化ポイントになっています。
そして、スタジオのテーマとして「第二のおうち」を掲げています。緊張して通う場所ではなく、ほっとできる場所にしたい。内装も、いかにもスタジオらしい“かっこよさ”ではなく、お家をリノベーションしたような木のぬくもりや暖色系の色味を取り入れ、アットホームな空気を大切にしています。インストラクターの接客や声がけも含めて「居心地のよさ」をつくることを重視しています。
さらに、価格についても「マシンピラティスを生活の一部にしていただく」ために欠かせない設計要素だと考えています。高単価だとどうしても通う回数が減ってしまい、体感を得るために必要な頻度を確保しづらくなります。だからこそ、無理なく継続できる価格設定にこだわっています。その実現のために、私たちは独自の設計をとっています。出店先は華美な繁華街ではなく、あえて生活圏に近い住宅街やマンションの一室を選びました。これは私自身が「隠れ家のようなスタジオ」を好んでいたこともあり、賃料を抑えつつ、日常の中でお客様の来店しやすさやリラックスして通えるプライベート感を大切にした結果です。また、内装も物件の良さを活かしてリノベーションするかたちをとっており、スケルトン状態からフル改築するよりもコストを抑えることができています。
さらに、YUZUは非常に口コミを多く頂いており、ブランドの世界観に共感いただくことで紹介の輪が広がり、結果的に広告に頼らずにお客様を呼び込むことに成功しました。
こうして施設や広告にかかるコストを最適化し、その分を「人件費」へと集中的に投資しています。
私たちは、最終的に価値を届けるのは「人」だと考えています。インストラクターが気持ちよく働けることが、お客様の体験に直結する。だからこそ、インストラクターを大切にする姿勢そのものも、YUZUの大きな特徴だと思っています。
5.現在注力していること
今、引き続き力を入れているのは人材の育成です。店舗が広がるほど、サービスの質をどう安定させ、どう積み上げていくかが重要になります。最終的にお客様へ価値を届けるのは現場のインストラクターなので、ここを強くすることが、事業の土台になると考えています。
最近は資格団体が増え、短期間で資格を取得できる環境も広がっています。ピラティスに興味を持つ方が増えたのは良いことですが、同じ資格保持者でも学びの深さに差が出やすく、私たちが目指す「マシンピラティスの本質を届ける」レベルには届いていないケースも正直あります。ただ、そこで線を引いて終わるのではなく、本人の思いや可能性を受け止めたうえで、段階的に成長できる研修体制をつくり直していく。新しい仕組みを作ってうまくいっても、また別の課題が出てくる。その繰り返しですが、やり続ける価値がある領域だと思っています。
同時に、店舗が広がるほど「YUZUらしさ」をどう保ち、どう伝えるかも重要になります。そこで私たちが強く意識しているのが、採用の入口管理と理念浸透です。採用では、理念や想いを候補者に言葉で伝えられる状態を採用担当が作り、その上で候補者がどこに共感し、自分のビジョンとどう一致するのかを面談で必ず確認します。
入社後も、理念に触れる機会を作り、ただ私が語るのではなく、ワーク形式で自分の言葉にしてもらい共有する。さらに個人のビジョンも書いてもらい、日々の業務がどうつながるかを面談の中で一緒に確認しています。数字的な目標ももちろん必要ですが、数字だけが目的になると現場の空気が変わってしまう。だから「なぜその目標が必要なのか」という一段上の目的を、本人たちが自分の言葉で理解できる状態を作ることに力を入れています。
6.今後の展望と挑戦
私がこれからも変わらず目指したいのは、お客様もインストラクターも、いろんなライフステージの中で長く居続けてもらえる場所であることです。そのために、インストラクターが現場に立つこと以外にも、もっと多様なキャリアの選択肢を持てる組織にしていきたいと考えています。
その一つとして取り組んでいるのが独立支援です。すでにYUZUのインストラクターから独立し、FCオーナーとして活躍している方も出てきました。ただ、やりたい気持ちはあっても「自信がない」「何から始めればいいかわからない」という方はまだ多い。だから今後は、独立に前向きになれるような支援を、より厚くしていきたいと思っています。
私自身、店舗運営や組織づくりをしてきた中で、マネジメントスキルやお金回りの知識を積み上げてきました。これをYUZUの中で、カルチャースクールのように届けていくことができたら、インストラクターが「自分も挑戦できるかもしれない」と思えるきっかけになるのではないか。そういう取り組みに挑戦していきたいです。
7.読者へのメッセージ
私がずっと大事にしているのは、現場を見て、現場の声を聞いて、それを経営に活かすことです。忙しくなると、どうしてもデスクワーク中心になり、現場から距離ができる時期もありました。でも、それだけでは届かない現場の思いや声がありますし、逆に私が伝えたい想いも、会わないと伝わらないことがあると実感しています。
現場に足を運び、会って話す。その姿勢を続けることで、「私がどういう思いでやっているのか」が伝わり、会社が同じ方向を向く一歩になると思っています。業種が違っても、組織を運営する上で現場を大事にすることは、多くの方のヒントになるのではないでしょうか。
産後やライフイベントをきっかけに、心身やキャリアに悩む方は少なくありません。私自身も、まさにその渦中で「通いたいのに通えない」「やりたいのにできない」を経験してきました。もし今そういう状況にいる方がいたら、諦める前に「環境を変える」という選択肢があることを思い出してほしいです。自分に合う場所や、自分が力を発揮できる形は、きっと作れる。私の経験が、どなたかの背中を押すきっかけになれば嬉しいです。