「技術者であり続けたい」―――タンケン和田社長が目指す持続可能な社会と企業の成長
株式会社タンケンシールセーコウ
代表取締役社長
和田正人
私のキャリア
私は高校時代から「技術者になりたい」という夢を抱いていました。当時指導していただいていた家庭教師が技術系の方で、その方に対する尊敬や憧れがあったのかもしれません。大学では機械系を専攻し、優れた技術者になるための一歩を踏み出しました。
私は新卒で日本ピラー工業株式会社(現:株式会社PILLAR)に入社し、それ以来一貫してPILLARで経験を積ませていただいたのですが、応募のきっかけは教授からの推薦です。推薦されてはじめて日本ピラー工業という会社を知ったのですが、ピラーのカタログをみて、しっかりした会社だと感じたことを今でも覚えています。
私が30代になった頃、、電力関連の製品は非常に活況であり、ピラーの中でも電力向けメカニカルシール担当の技術者は花形でした。私も1人の技術者として挑戦したいと考えていたので、原子力発電所の中枢を担うメカニカルシールの設計に携わる機会をいただいたときはうれしかったですね。自社だけでなく、誰もが知る一流企業に勤めるエース設計者たちとプロジェクトをともにしたことで、大規模案件における進行管理やリスクヘッジの方法を学ぶことができました。この経験は社長になった今でも私を支える重要な礎となっています。
2023年の4月に、株式会社PILLARは株式会社タンケンシールセーコウを完全子会社化し、そのタイミングで代表取締役社長に就任しました。これまでピラーで培ってきた経験を活かして新たな挑戦の機会をいただけることは非常にありがたく思っています。タンケンシールセーコウという会社は、有力な取引先に恵まれ、ステークホルダーも多く、影響力がある会社だと感じています。このような素晴らしい会社を預かる以上、経営者としてサステナブルな経営は責務だと感じています。とはいえ、私の根底には「技術者であり続けたい」という想いがあります。まだ挑戦の途中ですが、技術者目線を持った私なりの経営で未来を切り拓いていきたいと考えています。
会社や事業の紹介
タンケンシールセーコウは、「漏れを止める」というソリューションを活用し、ポンプや撹拌機などが使用されるプラントの安全連続操業を支えています。創業から培ったカーボン素材の開発・生産、流体制御技術を基盤としたメカニカルシールの設計・製作、専門性を結集した営業・技術サポート、これらのプロフェッショナルとして、お客様に密着したサポートサービスを実現しています。
また、新たな領域へのチャレンジにも積極的に取り組んでいます。創業以来、漏れを止める事を主眼にカーボンの研究に取り組んできましたが、カーボン素材の特性に注目して透過性をコントロールしたポーラスカーボンを開発しました。その透過性を活かして開発された多孔質吸着盤や精密浮上盤は、半導体ウエハーなどのデリケートなワークの安定したハンドリングを実現できます。
さらに、タンケンシールセーコウは、「クリーンで、安全性が高く、革新性を持つ技術」を追求しています。ESGやSDGsといった環境保護の視点を取り入れ、社会に貢献する製品を提供していくことも、今後の成長戦略において重要な柱となっています。私たちは、持続可能な社会を実現するために、技術の限界に挑戦し続けています。
経営ビジョンと理念
タンケンシールセーコウの社是は、「お客様の安全連続操業のサポートサービス」です。全社員がこの社是のもとに業務に取り組んでおり、特にトラブルが発生した際の迅速な対応は素晴らしいと感じています。担当者の対応の早さはもちろん、お客様の復旧のために全社員が協力して動く姿勢は当社の誇りです。お客様からの信頼が非常に厚く、対応の品質の高さをご評価いただいていると思います。
また、社会を支える存在として、未来を見据えた革新的な製品の開発にも取り組んでいます。カーボン素材の開発・生産、流体制御技術を基盤としたメカニカルシールの設計・製作技術などを駆使し、環境保護に貢献できる製品の開発を続けることで、次の世代に向けた価値を提供し続ける企業でありたいと考えています。創業の精神である『タンケン(探検)すればセーコウ(成功)する』を忘れずに、これからも独自の技術力を益々磨き、お客様のそして社会のご要請にお応えし貢献してまいります。
競合との差別化ポイント
タンケンシールセーコウの強みの1つは、環境に配慮した安全かつ取り扱い性に優れたシールを開発する「技術力」です。当社が提供するメカニカルシールは、流体の漏れを防ぐという環境への配慮した製品ではありますが、お客様の目線に立った設計にもなっています。今でこそ環境への配慮は製造業において無視できないキーワードですが、創業当初からこれらを意識した製品開発を行っている企業は珍しいのではないでしょうか。
また、この技術を支える「人財力」も大きな強みの1つだと考えています。競合他社が製品の提供にとどまる中、「安全連続操業」を実現するためのサポートを提供し、顧客と密に連携しながら現場を支え続けることは、並大抵の覚悟では真似できないのではないかと考えています。
そして親会社であるPILLARの強みとタンケンシールセーコウの強みを掛け合わせ、より一層これらの強みを伸ばしていきたいと考えています。PILLARのパーパスは「”社会を支える”未来を創る CLEAN/SAFETY/FRONTIER」です。「安全連続操業」は技術力や人財力に支えられていますが、VUCA時代と呼ばれる現代において、停滞は衰退といっても過言ではありません。今のタンケンシールセーコウは、まだまだ革新的なことに取り組むフロンティア精神が十分とはいいがたい組織だと思っています。常に社会や顧客に向き合い、時代のニーズに応えていけるよう研鑽を続けます。
現在注力していること
環境に優しい新製品の開発に注力しています。ポーラスカーボンを活用した吸着盤や精密浮上盤は非接触でワークをハンドリングできるため、半導体業界などの高精度が求められる産業でも有効活用が見込まれています。PILLARのパーパスであるCLEAN/SAFETY/FRONTIERを兼ね備えたユニークな事業であり、国内外からも関心を集めていることから、海外市場での認知を高めるべく、PILLARグループと一丸となって展開を進めていきます。
一方で、メカニカルシールは成熟産業と捉えており、機能の組み合わせや用途開発が必要だと感じています。カーボンニュートラル社会にシフトしていく過程で、現在の主要な顧客である石油産業や発電所のあり方も変わっていく可能性が高いと考えています。だからこそ、単に「モノを売る」だけではなく、顧客が求めるプロセス全体を提供する「コト売り」に挑戦しています。創業以来培ってきたシール技術を活かし、顧客の課題を解決するための包括的なソリューションを提供することで、より多くの場面で社会に貢献できるよう努めています。
今後の展望と挑戦
タンケンシールセーコウは幅広い業界の取引先を持っており、優秀なポートフォリオを持っていると感じています。タンケンシールセーコウの未来を預かる者として、このポートフォリオをより強固なものにしていくことが重要だと考えています。
私たちの技術は、あくまでも流体の漏れを制御する技術です。特定の業界にとっては当たり前の技術かもしれません。しかし、世の中にはシールしたくても上手くできないという課題が多く残されているのではないでしょうか。私たちにとっての当たり前が、ところ変われば革新的な技術として受け入れられることもあるでしょう。再生可能エネルギー領域はその代表例かもしれません。新たな市場への参入も視野に入れ、私たちのシール技術が持つ可能性を最大限に発揮できるような体制を整えるためにも、とにかくいろいろなところに顔を出し、製品を出していきたいと考えています。
また、ポーラスカーボンの事業については半導体業界でのシェアを拡大していきたいと考えています。ユーザーの困りごとを一番早く聞きに行き、課題解決のために試行錯誤し続けていきます。
これらの実現に向けて欠かせないのが「人財」です。社員一人ひとりが成長できる環境を整備し、挑戦を奨励することで、社員が持つ可能性を最大限に引き出していく必要があります。目先の成功だけにとらわれず、タンケンシールセーコウを持続的な成長を実現できる企業へと発展させていく。これが私の使命であり挑戦です。
読者へのメッセージ
私は経営者としては若輩者ではありますが、経営するうえで強く感じているのは「現状維持は衰退」ということです。時代が変わりゆく中で企業が生き残るためには、変化を恐れず、新たな挑戦を続ける必要があります。将来に向けて何を残し、何を捨てるかを見極めなければ、新しいことはできません。とはいえ、「捨てる」という判断は社員に精神的な負担を強いてしまうことも事実です。選択と集中を進めて経営の方向性を示しつつ、失敗しても戻れる土台は残しておく。これが社員が安心して新しいことに挑戦できる環境作りに繋がるのではないかと考えています。
シビアな意思決定を行うにあたって、信頼できる情報源を持っておくことも重要です。私自身は常に取引先の動向にアンテナを立てており、社長に就任した現在も、担当の営業社員や技術社員とともに定期的な訪問をしています。現場社員とのコミュニケーションも信頼できる情報源であり、決められた会議以外でもコミュニケーションをとるようにしています
経営の意思決定は重く、簡単なものではありませんが、1人でも多くの経営者の皆さまが「未来志向」を持ち、新しい価値の創造に全力で取り組んでいっていただけることを願っています。
まとめ
高校時代に抱いた「技術者になりたい」という夢を原点に、キャリアを通して築いた技術者としての確かな経験と、経営者としての未来志向に満ちた意欲が垣間見えました。一流企業の技術者とともにミスが許されない大規模プロジェクトを担当した経験は、現在の経営スタイルに大きな影響を与えており、冷静かつ堅実でありながら大義に向けて着実に歩みを進めている様子が伺えます。
2023年にタンケンシールセーコウの代表に就任した今も「技術者であり続けたい」という想いを胸に、持続可能な経営を目指されています。これまでタンケンシールセーコウを支えてきた「漏れを止める」技術力を基盤に、新たな価値を融合させた製品開発に注力している姿は、「現状維持は衰退」という信条を体現している印象を受けました。
PILLARグループとなったタンケンシールセーコウ。和田さんのリーダーシップのもと、私たちの持続可能な社会の実現に向け、より一層の貢献と革新をもたらしてくれるのではと感じています。
和田さん、お忙しい中ご協力いただきありがとうございました。