TOP > 経営者インタビュー > 医療は国境を越える――現場の声から生まれる清水映輔の挑戦とビジョン

医療は国境を越える――現場の声から生まれる清水映輔の挑戦とビジョン

株式会社OUI(OUI Inc.)

CEO, founder

清水 映輔

1. 経営者のキャリア

慶應義塾大学 医学部を卒業後、医師として臨床の現場に立ちながら、研究者としても活動を続けてきました。そのなかで強く感じたのは、「目の前の患者を救うだけでは解決できない課題が数多く存在する」ということです。医療従事者として努力しても、機器や環境の制約によって思うように治療ができない現実がある。その壁を越えるためには「自ら新しい仕組みをつくるしかない」そう考えるようになりました。

 

株式会社OUIを立ち上げたのは、眼科医として勤務し始めて3年目のことです。「新しい医療の形をビジネスとして生み出したい」という想いから、起業しました。

 

これまでベトナムをはじめとするアジア諸国、中南米、アフリカなど、さまざまな国や地域に足を運んできました。医療環境が整っていない現場に立ち会うたびに、「自分にできることは何か」と問い続ける日々でした。そうした体験が、経営者としての挑戦を後押ししてくれたのです。

 

医師、研究者、そして経営者としての経験が複合的につながり合うことで、現在の事業が形になっているのだと感じています。

 

 

2. 会社や事業の紹介

株式会社OUIのコア事業は、スマートフォンでどこでも眼科診療を可能にする医療機器「Smart Eye Camera」の開発・販売です。

 

 

ベトナムをはじめとする東南アジアでは、眼科診療に必要な大型医療機器が十分に整備されていない地域が多くあります。現地では、スマートフォンのライトやカメラを使って診察を行っている様子を目にしました。眼科での診察に欠かせないのが、目に光を当てて観察する「細隙灯顕微鏡」です。日本では一般的に使用されていますが、現地ではその代替としてスマートフォンを活用している状況でした。しかし、スマートフォンだけで細隙灯顕微鏡と同じ光を再現することは困難です。

 

そこで、「スマートフォンに装着して診療を補助できるデバイスをつくれば、医療現場の力になれるのでは」と考えたことが、Smart Eye Camera開発の出発点でした。

 

Smart Eye Cameraは、スマートフォンに装着して使用するアタッチメント型の医療機器です。既存の細隙灯顕微鏡と同様に、眼瞼・角結膜・前房・虹彩・水晶体・硝子体といった部位の観察を可能にし、白内障などの眼科疾患を診断することができます。救急や手術室などの高度医療現場に加え、CTやMRIが整備されていない地域や途上国の病院でも活用できるよう設計しています。現在は新型機器の開発を進めており、販売体制の整備とともにさらなるスケールアップを目指しています。

 

Smart Eye Cameraは日本国内のみならず、海外33か国でも販売を展開しています。各地の医師と共同研究を行い、実際に使用してもらいながら得たフィードバックを製品開発に反映しています。こうした「エビデンスファースト」の姿勢のもと、現場のニーズに基づいた開発を続けています。

 

導入いただいた先生方からは「診断のスピードが上がった」「患者にすぐ説明できるようになった」「患者さんの数が増えた」といった声を多数いただいています。医療機器にとって最も重要なのは、机上の理論ではなく“現場で本当に使えること”だと考えています。

 

また、弊社では医療機器の開発だけでなく、スマートフォンだけで眼科検診業務が完結する「読影サービス」も提供しています。 Smart Eye Cameraで撮影した画像を眼科医が確認し、フィードバックを返す仕組みを構築することで、遠隔での診療を実現しています。遠隔診療が可能になれば、外出が難しい方にも診察の機会を届けることができますし、日常的に眼科を受診する機会が少ない方にも、予防的なケアを提供することができます。こうした取り組みは、私たちのミッションである「世界の失明を50%減らす」という目標の実現にも直結しています。

 

さらに健康経営の一環として、企業向けのメディカル眼科検診訪問サービス「Mobile Eye Scan – 企業様向け訪問型眼科検診」を開始しました。眼科医や視能訓練士が企業へ直接訪問し、忙しいビジネスパーソンが罹患しやすい眼科疾患をスキャンするサービスです。オフィスで手軽に眼科検診を受けられる点が評価され、多くの企業様からご好評をいただいています。

 

 

3. 経営理念とビジョン

弊社では「世界の失明を50%減らす」をミッションとし、「眼から人々の健康を守る」というビジョンを掲げています。 この“50%”という数字は一見大きくも小さくも感じられるかもしれませんが、私たちは十分に現実的な目標だと考えています。

 

現在、世界で失明している方は約4,400万人にのぼり、これは日本の人口の約3分の1に相当します。また、視覚障害をお持ちの方はおよそ22億人に達するといわれています。その多くは、医療体制が十分でない途上国で、適切な診断や治療を受けられなかった方々です。 私たちは、Smart Eye Cameraを用いてそうした地域の人々に正確な診断の機会を届け、失明を未然に防ぐことを目指しています。

 

さらに、今後こうした取り組みを進めなければ、2050年には失明者数が現在の約3倍に増えるともいわれています。 この現実に対し、私たちはSmart Eye Cameraというデバイスを通じて、少しでも多くの人が視力を守れる社会をつくっていきたいと考えています。

 

また「50%削減」という数字が実現可能である理由の一つは、失明の原因の約51%が白内障によるものだからです。白内障は加齢によって眼の中の水晶体が濁り、光が入らなくなる病気です。日本では白内障による失明は全体の約3%となっていますが、 一方、途上国では「年を取れば眼が見えなくなるのは当たり前」と考えられている地域も多く、治療を受けるという意識自体が根付いていません。

 

 私たちはSmart Eye Cameraを通じて、こうした方々に正しい診断と治療の重要性を伝え、失明を防ぐ啓発活動を進めていきます。

 

 

4.競合との差別化ポイント

私自身、眼科医として現場で診療を行っているため、眼科医の先生方の気持ちはよく理解しています。 医療機器というと「医師が使うもの」というイメージが強いかもしれませんが、実際の現場では、日々多忙な医師にとって操作のハードルが高いものも少なくありません。そうした課題を踏まえ、私たちはタスクシェア・タスクシフトを前提とした機器開発を進めています。

 

また、遠隔診療の分野においては、私自身が専門的な知見を持つように勉強しています。これまで培ってきた経験と知識をもとに事業を運営しているため「遠隔診療を始めたいが、何から取り組めばよいかわからない」という企業の方々にも、安心してご利用いただける体制を整えています。

 

さらに、弊社の強みはシステムやデバイスをすべて自社で一貫開発していることです。外部に委託することで起こりがちな「つくりたいものとのズレ」が生じることはありません。メンバーそれぞれが限界を設けず、エビデンスファーストの姿勢で、多様性を尊重しながら出したアイデアをそのまま形にできる環境があります。

 

 

5. 現在注力していること

現在、最も注力しているのは、世界中の研究者や医師と連携しながらエビデンスを積み重ねることです。 医療機器において、科学的な裏付けは信頼の基盤となります。どれほど便利なデバイスであっても、確かなデータがなければ広く普及させることはできません。

 

これまでに100件以上の共同研究を進めており、地域ごとに異なる環境や症例に対応しながらデータを収集しています。その過程で見えてくる課題を一つひとつ解決し、エビデンスとして積み上げていくことが、普及に向けた確かな第一歩だと考えています。

 

欧米では、研究としての活用を重視し、共同研究を通じて臨床データを蓄積することが一般的です。 一方で、アジアやアフリカでは、研究よりも「今すぐ現場で使えること」が求められています。 私たちの機器は、その両方のニーズに応えられる柔軟性を備えている点が強みです。

 

さらに、販売して終わりではなく、共同研究を通じて現場とともに改善を続けていることも、私たちの大きな特徴です。 研究者としてエビデンスを集め、経営者として製品を市場に届け、そして医師として現場の声を受け止める。

 

このサイクルを同時に回し続けることこそが、私たちが今後も注力していきたい取り組みです。

 

 

6. 今後の展望と挑戦

今後はさらに国際的な研究ネットワークを広げ、各国で信頼されるデータを発信していきたいと考えています。医療は国境を越えるものであり、国や地域によって課題は違っても、共通するニーズは必ず存在します。世界中で同じ課題を解決できる仕組みをつくることが、次の目標です。

 

また、誰でも扱えるシンプルなデバイスを実現し、普及のスピードを加速させたいと思っています。医療の高度化が進む一方で、専門家が不足している地域は多く存在します。そのギャップを埋めるには、わかりやすくてシンプルな技術を届けることが欠かせません。救急の現場では一秒一秒が命に直結します。複雑な操作をしている余裕はありません。看護師や若手医師、医療スタッフでも直感的に使えるシステムにすることで、導入の幅を広げていきたいと考えています。

 

挑戦を続けること自体が、経営者としての使命です。現状に満足するのではなく、常に改良を重ね、新しい可能性を開いていく。そうした姿勢を持ち続けることが、結果として医療の未来を変えることにつながると信じています。

 

 

7. メッセージ

これまで数え切れないほどの失敗や苦労を経験してきました。海外での取り組みもうまくいかないことが多く、そのたびに壁にぶつかってきました。それでも挑戦を続けることでしか見えない景色があります。失敗を恐れて立ち止まるのではなく、失敗を糧にして次の挑戦に進むこと。それが事業の力になり、自分自身の成長にもつながってきました。

 

中小企業の経営者や次世代のリーダーの方々にも、挑戦を続けてほしいと思います。完璧に準備が整うことはありません。不完全でもまずは一歩を踏み出すこと。その先にしか未来はありません。

 

弊社も挑戦の先に新しい可能性があると信じて、これからも歩みを続けていきます。