「採用の新常識を作る」──moovy三嶋社長が目指すSNS時代の採用支援
私のキャリア
私は1984年、京都で生まれました。大学3回生まではろくに勉強もせずに、バイクで日本中を旅するような学生だったのですが、就活時に「リクルート」という会社との出会いが自分の人生を大きく決定づけたと感じています。当時受けていた会社説明会で、経営者や人事部長が「私は、元々リクルート出身で…」と語っているのを聞いて、「なぜこんなに人が辞めるのだろう」「なぜ辞めた会社について胸を張って語るのだろう」と不思議な気持ちになりました。実際にリクルートの選考を受けてみて、「激務だけど、超楽しそう」と感じ、強い衝撃と強い興味を持ちました。最終的に卒業論文では「リクルートはなぜ人材輩出企業になり得たのか」というテーマで書くことになるほど、当時の私に大きく影響を与えた存在だったのは間違いありません。ただ同時に、リクルートのような既にできあがっている企業ではなく、「成長途上にあった頃のリクルート」のような会社で働いてみたいという思いもあり、そのとき一番イメージに近かったキャリアデザインセンターに入社しました。
入社後は転職エージェントのコンサルタントとして、多くの企業の中途採用を支援し、約8,000名のキャリアカウンセリングを経験しました。営業統括部長や新規事業責任者を歴任する中で、採用市場におけるミスマッチが生む機会損失の大きさに気付きました。自分の仕事も、会社の業績も順調でしたが、HR業界はこのままでいいのかという焦燥感にかられるようになります。新規事業開発部門の立ち上げを社長に提案し、「言い出しっぺのお前がやれ!」ということで私が責任者としてやらせてもらえるチャンスをいただきました。
就任直後の3ヶ月で起業家・新規事業担当者の方々 100人にインタビューをしたり、カンファレンスに参加したり、国内外のレポートを読んだ上で情報を精査。実現性や新規性、収益性を加味し、毎週1つずつ新規事業プランを管掌役員にピッチしていきました。そんな中生まれたアイデアの1つが、現在のmoovyの根幹となっている「採用動画に特化したプラットフォーム」です。HR業界に新しい風を吹かせることができるかもしれないと思った私は「これはいける」と意気込み、役員会で提案したのですが、返ってきたのは渋い反応。「そこまで言うなら、三嶋が起業してやってみたら?」と、社長から冗談交じりに言われ、私自身も「その通りだな」と目が覚めました。就活時代にリクルートマンに出会い、自分もいつか起業すると意識していましたが、やはり、自分が見てきた課題に対して、自らリスクを取ってプロダクトを作り、世の中に提示すべきだと思ったのです。
キャリアデザインセンターを退職してすぐに起業したわけではありません。起業の準備段階では、自分自身でプログラミングを学ぶことが重要だと感じ、起業家・エンジニア養成学校「G’s ACADEMY」に通い、7ヶ月間、1日10時間以上プログラミングに取り組みました。技術を深く理解することで、チーム開発やプロダクトづくりのわくわく感も味わいました。
そして2020年4月に株式会社moovyを創業し、7月に採用動画プラットフォーム『moovy』をリリースしました。採用動画を通して求人情報における「偏り」や「画一性」を改善し、よりリアルで良質な出会いを創出することで、納得感のある仕事選びができると信じています。
会社や事業の紹介
株式会社moovyは、採用に特化した動画プラットフォーム『moovy』を運営する企業です。採用動画を通じて、企業と求職者のリアルな姿を伝え、ミスマッチのない採用活動をサポートしています。moovyのサービスは、2,500本以上の動画制作実績があり、視聴データを分析することで、企業ごとに最適な採用動画を提供しています。
moovyの特徴は、単に動画を制作するだけでなく、動画配信システムを含めたトータルサポートを提供する点です。動画ごとの個別ページを作成し、求職者とのやり取りをスムーズに行う仕組みを整えています。また、クリエイターには、テレビ番組制作の経験を持つプロフェッショナルが多く在籍しており、クオリティの高い動画制作が可能です。
現在、採用動画のほかに、企業の認知拡大を目的とした「moovy+」という新サービスを展開しており、SNS運用や動画マーケティングの支援も行っています。
経営ビジョンと理念
moovyのミッションは、「ミスマッチと機会損失を軽減し、より楽しく熱い社会を実現する」ことです。採用情報の偏りや画一的な情報を改善し、企業と求職者が納得感を持って出会える場を提供することを目指しています。私たちは、能力や個性が最大限に発揮される職場環境のマッチングを通じて、社会全体を高揚感や充実感で満たしたいと考えています。
また、moovyは出資を受けずに事業を進める方針を取っています。潤沢な資金があれば、事業運営は楽になるかもしれません。ただ、同時に投資家の思惑が絡むことで、やりたい仕事ができないリスクが生まれます。なぜ自分が起業したのか考えてみると、限られたリソースの中でプロダクトを磨き上げることが重要ではないかと感じています。だからこそ、外部資金に依存せず、持続可能な経営を目指しています。
さらに、moovyは正社員を最小限に抑え、多くの業務委託の方にご協力いただくことで成り立っている組織です。限られた資金で複数の人の協力を得るのであればプロの空いている時間を少しずつお借りした方が都合がいいという面もありますが、moovyはHR業界の課題を解決するために創った会社だからこそ、雇用形態に関わらず、業務委託の方々も社員のように育成し、プロジェクトを進めています。手足のように使うのではなく、同じビジョンの実現を目指すパートナーとしてお付き合いしています。
競合との差別化ポイント
moovyの強みは、採用に特化した動画制作とその運用ノウハウにあります。2,500本を超える動画の視聴データを分析し、企業ごとに最適なコンテンツを提供することで、他社にはない精度の高い採用動画を制作しています。テレビ番組制作の経験を持つクリエイターが在籍しており、質の高い映像制作が可能です。今でこそ動画を使った採用手法は市民権を得ていますが、創業当初から培った縦長短尺動画のノウハウはmoovyの強みになっていると思います。
さらに、動画制作だけでなく、配信システムの提供や動画マーケティングのサポートも行い、採用活動全体を支援するトータルソリューションを提供しています。こうしたクリエイターの専門知識と、SNSを活用した認知拡大戦略を組み合わせることで、企業のブランディングと採用活動の両方に寄与しています。
現在注力していること
現在、moovyは「moovy+」という新サービスのスケールアップに注力しています。これは、企業の認知拡大と採用活動を支援する動画マーケティングサービスで、特にSNSを活用した動画運用が特長です。InstagramやYouTubeなどのSNSを使い、動画を通じて企業の魅力を伝えることで、求職者の関心を引き、採用活動を効果的に進めるサポートをしています。
また、組織運営の面では、営業チームやクリエイターが連携し、効率的に動画制作とディレクションを行う体制を整えています。特に業務委託のメンバー同士のコミュニケーションを重視し、相互理解とスムーズな業務連携ができるように工夫をしています。この取り組みは少しづつ芽が出始めているなと感じています。業務委託の方同士が交流する中で、ある業務委託の方が他の業務委託の方に対して「○○さんって、moovyっぽいよね」と言葉をかけた際には、地味に感動しました。立場に関わらずお互いが通じ合えること、そしてmoovyの価値観が伝播して、moovyに関わる人の価値観をアップデートしていくこと、まだまだ成長途中の会社ではありますが、そういう世界観を創っていければと思っています。
今後の展望と挑戦
moovyは今後、動画プラットフォームとしての地位を確立し、動画を当たり前のように活用する採用ツールにしたいと考えています。また、これまで採用に特化してきたサービスを、営業活動や企業ブランディングなど幅広い用途に展開し、動画がビジネスに不可欠なツールとなることを目指します。特に、導入企業の声やコンサルタント紹介動画など、エンゲージメントを高めるコンテンツの開発を強化していきます。
moovyの成長戦略としては、現在のサービスの拡充と新しいメディアや技術の導入に力を入れ、常に最新のトレンドを取り入れる探究心を持ち続けています。動画を作るハードルが下がり、多くの企業が気軽に使えるような環境を整え、動画マーケティングの大衆化を目指したいと考えています。
成長の過程で、変化を恐れず柔軟に対応することが大切だと考えています。新しいメディアや技術が登場した際には積極的に探求し、未来のビジネスの可能性を広げていきたいと思います。
読者へのメッセージ
組織の力を最大化するのは業界を問わず重要なことだと思います。経営者として、ビジョンを明確に示すことは大切ですが、それだけでは組織の力を最大化できているとは思いません。立場によって考え方が異なるのは当然ながら、相互理解を深めていく必要があると思っています。
私は、社員やパートナーに対して、ビジョンを明確に示すだけでなく、それがどういう意思決定のもとで行われたかもできる限り伝えるようにしています。「moovyっぽい」と感じられる価値観が共有され、伝播していく瞬間を目の当たりにするのは、とてもエモい瞬間だと思っていますし、今後もこのような機会を増やしていければと思っています。
そして、国内外の優良なサービスにも目を向け、チームメンバーとディスカッションし、顧客のため、未来のためにどんなサービスが良いのか考え続けることが大切だと思っています。わくわくするものとの出会いは、巡りめぐって自分のビジネスの成長に繋がっていくと信じています。
まとめ
自らのキャリアを通じて得た経験と気づきから、「ミスマッチと機会損失をなくす」という課題に真正面から取り組んでいます。リクルートとの出会いから始まり、HR業界の未来を真剣に考え、変革を求め続けた経験が「moovy」というアイデアを生み、事業を成長させる原動力となっているのではないでしょうか。動画を活用した採用支援という形で、よりリアルで納得感のある就職活動を可能にし、社会に新たな価値を提供し続けています。
また、「リアルな情報の伝達」を大切にし、企業と求職者のマッチングを進化させることを目指しています。それだけでなく、社員の雇用形態に関わらず、価値観を共有することで、従来の働き方にとらわれない新しい仕事や事業運営のカタチを創っている印象を受けました。今後も挑戦を恐れず、動画プラットフォームとしての大衆化を目指し、常に新しい技術やトレンドを取り入れながら、成長を続けていただきたいと感じました。
三嶋さん、お忙しい中ご協力いただきありがとうございました。