倒産から年商200億円へ――町田博が挑む「在庫活性化」の未来

1. 経営者のキャリア
高校を卒業して入社したのは日本電信電話公社(現・NTT)でした。当時、私は自分の知識不足を痛感しました。そこで24歳のときにNTTを退職し、現金問屋へ転職しました。そこで初めて、商品の流れや価格の決まり方について学ぶことができました。流通や価格の感覚を肌で覚えた経験が、独立のきっかけになりました。
その後、ゲーム流通の事業を立ち上げました。市場の追い風もあり、売上は急成長。わずか6年で年商140億円を超えるまでになりました。ただし、勢い任せの拡大は長く続きません。過剰在庫を抱え、最終的に約46億円もの在庫を残して倒産しました。銀行から「もうやめた方が楽ですよ」とまで言われましたが、それでも諦めきれませんでした。
失敗の原因を徹底的に分析した結果、「在庫を活かす仕組みがなかった」ことが最大の課題だと気づきました。ならば、自分がその仕組みをつくればいい。倒産の経験を必ず価値に変える――そう決めて、再起を図りました。大阪にはゲーム流通の事業を行う元部下が残っていたため、競合を避けて東京に拠点を移し、ゼロからの挑戦を始めました。失敗をする中でも原動力はただ一つ、負けん気でした。
2. 会社や事業の紹介
再出発後に構築したのが、独自の 「M-マッチングシステム」 です。楽天やAmazonといった市場の相場を分析し、手数料や粗利を加味した「通る価格」を提示できるのが特徴です。JANコードを活用することで商品を明確に特定でき、国内外を問わずスムーズな取引が可能になっています。
この仕組みがあるからこそ、営業力に頼る必要はありません。社員には「普通の人でいい」と伝えています。大事なのは、データを整えて顧客に正確に見せ、注文が入れば仕組みで処理すること。人ではなく仕組みで勝負する会社です。
現在、法人取引6,000名、海外バイヤー800名、個人事業主5,800名が登録しています。さらに個人プレイヤーも約6,000名が参加し、月間20〜30億円規模の売上をつくるまでになっています。今後も会員数を拡大し、在庫流通ネットワークを広げていきたいと考えています。
加えて、秋葉原の一等地に出店している小型店舗は月商5,000万円を超える成果を出しています。リアル店舗を持つことで「売り場を失ったメーカー」に新しい販路を提供し、商業施設でのイベントやプラモデル製作会などを通じて地域とのつながりも生まれています。
3. 経営理念とビジョン
日本には約75兆円の在庫が存在し、そのうち22兆円が廃棄されているといわれています。これは大きな社会的損失です。私はこの課題に正面から取り組み、余剰在庫を「機会」に変えることを使命としています。
そのために大切にしているのが 「匿名性」「徹底検品」「副業支援」 です。匿名性によって取引のハードルを下げ、徹底的な検品で信頼を担保する。さらに副業として在庫取引に参加できる仕組みを整えることで、個人や小規模事業者の参入を促しています。
私の信念は「失敗を価値に変える」ことです。倒産の経験を仕組みに昇華させたからこそ、今があります。これからも 「データと仕組みで継続的に勝つ会社」 であり続けたいと思っています。
4. 競合との差別化ポイント
私たちの最大の強みは、24年間積み重ねてきたノウハウとデータです。単なるプラットフォームではなく、市場相場を踏まえて「売れる価格」を提示できる仕組みは模倣が難しく、競合にはない価値を生み出しています。
さらに、個人プレイヤーという新しい市場を取り込んでいる点も特徴です。小規模ながら在庫を持ち、商売をする個人が増えている中で、彼らを顧客として支援する仕組みを整えました。すでに6,000名近い個人事業主や副業・県業者が参加し、事業の大きな柱になっています。
もう一つ大事にしているのが 実店舗です。当社では「まちキャラ」というホビーショップを首都圏に5店舗運営しております。街のおもちゃ屋やゲームショップが減少する中、リアルな売り場を提供することはメーカーにとって大きな意味を持ちます。実際に商業施設への出店依頼も増えており、ファミリー層を中心に賑わいを見せています。リアル店舗は売上をつくるだけでなく、メーカーの応援を得やすい環境を整える効果もあります。
つまり、データと仕組み、個人プレイヤーの市場、リアルな売り場。この三つを組み合わせていることが、他社にはない競争優位性だと考えています。
5. 現在注力していること
今、特に注力しているのは M-マッチングシステムの会員拡大 です。法人6,000名、海外バイヤー800名、個人事業主5,800名という登録者数をさらに伸ばしていきたいと考えています。会員が増えることで在庫の出口が広がり、流通のスピードも上がります。
同時に、AIを活用した需要予測や在庫回転の最適化にも取り組んでいます。市場を正確に読み取り、在庫を資産として循環させる仕組みを進化させています。
そして、もう一つ大切にしているのが 社員が安心して長く働ける環境づくり です。私は「残業はしない」と率先して定時退社を促しています。時間に追われるのではなく、効率よく働くことが大事だと考えているからです。さらに、会社の利益はすべて社員にオープンにしており、その上で意見を尊重する風土があります。
こうした環境づくりの結果、10年以上勤めてくれている社員が多く、従業員の定着率は非常に高い状態が続いています。安心して働ける職場があるからこそ、仕組みを磨き上げ、会員拡大や事業成長に挑戦できる。社員定着率の高い会社であることも、私たちの大きな強みだと思っています。
6. 今後の展望と挑戦
これからの目標は、売上200億円を確実に達成し、その先にある1,000億円を目指すことです。そのためにはシステムの進化に加え、新しい商材の開拓が欠かせません。限られたパイを取り合っているだけでは、成長に限界が来るからです。
今、特に力を入れているのが「ペット用品」です。国内だけでも1兆円規模の市場があり、家庭に深く入り込んでいる商品群です。しかも消耗品が多く、リピート性がある。これは当社のマッチングシステムと非常に相性がいいジャンルだと考えています。
ただし、在庫の可能性を見極めて適正価格を判断するには、その業界に詳しい“目利き”が必要です。そこで当社では、ペット用品業界で経験を積んだ専門バイヤーを迎え入れ、在庫流通を本格的にスタートしようとしています。専門バイヤーがいれば、新しいジャンルでも高い精度で在庫を流すことができます。
今後もこの方法で、新たな商材を見つけたいと考えています。もし「扱いたい商材がある」「新しい販路を探している」という企業の方がいらっしゃれば、ぜひ当社と一緒に取り組んでいただきたい。業界を問わず、共創のパートナーを幅広く募集しています。
また、販路についてもアジアにとどまらず、さらに広いエリアへ展開していきます。私は76歳になりますが、まだまだ新しい挑戦をしたい。動けるうちに、次の仕組みを構築することが使命だと思っています。
7. メッセージ
最後にお伝えしたいのは「諦めないこと」です。倒産を経験し、銀行からも見放されかけました。それでも諦めず、仕組みをつくり直してここまで来ました。失敗は必ず学びになります。大事なのは、それを分析して仕組みに変えること。そして粘り強く挑戦を続けることです。
「チャンスは誰かが運んできてくれるものではない。自分で掴みにいくもの」私はそう信じて、これからも挑戦を続けていきます。
また、当社は7期連続で増収を続け、5年以内に売上300億円、将来的には1,000億円を目指しています。余剰在庫の活用や、新たな市場の開拓に挑む企業の皆さま、ぜひ共に新しい価値を創りましょう。新たな商材や販路のご提携やご相談もお待ちしています。