「経験至上主義、やってみることで見える世界」──挑戦を続けるフロッグ菊池社長の仕事哲学
株式会社フロッグ
代表取締役
菊池 健生
私のキャリア
学生時代から、「早く社会に出て自分の力を試してみたい」と考えていました。大手企業よりもベンチャー企業に興味があり、自分の実力がどこまで通用するかを試したいという思いを強く持っていました。挑戦心が旺盛だったのです。理系の学部に在籍していたため、周りの友人のほとんどが大学院に進学するなか、大卒で就職活動に踏み切ったのはこれが理由です。就職活動では広告業界を志望しており、大手広告代理店も見ていたものの、新卒で入社した人材系企業であるキャリアデザインセンターは初めて本気で行きたいと感じた会社でした。
当時はリーマンショックの真っ只中。希望していたクリエイティブ部署ではなく営業に配属となり、さらに景気の悪化で営業成績も伸びないという苦しい状況を経験しました。徐々に景気は回復していくのですが、営業成績は鳴かず飛ばず。それもそのはずで、当時の私は、上司の命令をひたすらやり続けることが仕事だと勘違いしていたのです。「こんな市況感で売れるわけがない」と思いつつ、営業のKPIを淡々とこなす毎日を送り、「うまくいかなくても仕方がない」「売れている同期は才能があったんだ」と言い訳していました。上司から「本気で仕事をしているのか?何%ぐらい本気を出しているんだ?」と問いかけられたことが転機となりました。上司からすれば、100%の力を出し切っていないのに結果が出ないとあきらめるのはおかしいと指摘したかったのだと思います。上司の喝をきっかけに、自分の限界を超える努力をしようと決意しました。年間100冊以上の本を読み、無駄な業務を洗い出し、効率化できるところはどんどん改善していきました。営業企画に異動してからもこの取り組みを続け、気づけば広い視野で物事を見られるようになりました。
営業企画時代からコミュニケーションを取っていたゴーリストに転職し、オウンドメディアであるHRog(フロッグ)の編集長に就任してからも苦労の連続でした。恥ずかしながら、転職当時はP/Lも読めなかったのです。月次の締め作業のために遅くまでコストを洗い出し、仕組み化を進めるなど事業全体の改善に取り組み続けた結果、今ではコスト管理の重要性を強く感じています。メディアで結果が出たこともあり、現在は株式会社フロッグとして分社独立、私自身も代表取締役になりましたが、必死で努力した体験は今でも鮮明に思い出せます。100点取れなくても100%は出せる、やってみることで見える世界が変わるという考えを今でも大切にしていますね。
会社や事業の紹介
株式会社フロッグは、株式会社ゴーリストから分社化して誕生しました。フロッグは人材業界向けメディアの運営会社というイメージを持たれがちですが、実際は求人ビッグデータを取り扱う会社です。2014年からサービスの提供を開始し、現在では日本全国150以上の求人サイトから取得した40億件以上の求人ビッグデータを保有しています。それらのデータを「必要な時」に「必要な人」へ「必要な形」で提供し、労働市場を可視化することで、クライアントの意志決定を支援しています。
フロッグの親会社であるゴーリストは、「Glocal10」というビジョンの元に、10社 / 10ヵ国 / 10事業の展開を目指しています。この実現には、経営を担える人材の育成が重要になるため、戦略的かつ積極的に権限を委譲する必要があります。現在フロッグが運営しているサービスは、元々ゴーリスト設立のきっかけとなったサービスではありますが、このような背景もあり、より柔軟で迅速な意思決定を可能にするためにも、子会社として独立させ、現在の形態を取っています。現在のボードメンバーは、私を含めて3名。若手を中心としたチームで新たなスタートを切りました。現在、私以外のボードメンバーは新卒入社で、フレッシュなリーダーシップの下で事業を推進しています。
経営ビジョンと理念
フロッグの経営ビジョンは「日本の求人ビッグデータの価値を高める」です。主に人材業界で市場調査や採用意欲の高い企業リストとしてご活用いただいています。近年では採用部門での市場分析の他、官公庁や金融機関、大学・報道機関における景気動向データとしての活用も増えてきました。私たちは求人ビッグデータを「労働市場の今」がわかるデータとして、より身近に、よりわかりやすく、よりスピーディーに提供することで、データの価値そのものを高めていきたいと考えています。
また、フロッグは親会社であるゴーリストの血を濃く受け継いでいます。ゴーリストグループの「個と組織をGoalに導くプロフェッショナルチーム」というミッションも大切にしており、社員一人ひとりがどこに行っても活躍できる組織を目指しています。極端な話かもしれませんが、大手企業で活躍しうる人材は、良い意味で凹凸のないバランス型の人材ではないかと考えています。一方で、私たちはバランスがいいビジネスパーソンばかりとは言い難いです。私自身、入社直後はP/Lも読めませんでしたし。だからこそ、私たちは、個人の強みと弱みを補い合うことで、チームとして最高の成果を出すことに重きを置いています。
そして、チームワークを重視した企業文化を築いていくにあたり、私たちは「問題発見は個人の責任、解決はチームの責任」という価値観を大切にしています。問題や失敗を包み隠さず伝えるのは、勇気がいることです。ただ、強み弱みがあるからこそ人間だとも思います。弱さをさらけ出せる環境を創ることが、ゴーリストグループの経営者に課せられた使命のひとつだと思っています。もちろん、企業が提供できるのは機会までであり、それを活かすかどうかは社員自身に委ねられていますが、この文化が、どの環境でも通用する人材を育てるための基盤になっていると思います。
競合との差別化ポイント
フロッグは求人データベースの構築や利活用において非常に早い段階から着手した企業です。HR×ITのストック型ビジネスモデルを取り入れ、景気変動の影響を受けにくい仕組みを構築しています。Indeedが日本に進出する前から、BtoB向けの情報収集とデータ提供に取り組み、法人営業の支援を行ってきました。人材ビッグデータの活用に特化した独自のアプローチは、創業時から続くフロッグの強みだと思いますし、この点が競合他社にはない優位性を生んでいると思います。
もちろん類似サービスを提供する競合企業も存在します。しかしながら、私たちは人材ビッグデータの法人向け活用において独自のノウハウとスキルを持っており、現在も圧倒的な強みを発揮できていると考えています。
現在注力していること
現在、グループではグローバル展開に注力しています。10カ国での事業展開を目標に掲げ、5年後には売上の半分を外貨で獲得することを目指しています。これは単に海外進出を進めるだけでなく、為替リスクを分散し、国際的な市場での競争力を強化するための戦略です。
さらに、分社化による経営のスピードアップも進めています。分社化は各事業の独立性を高めるための手段であり、それぞれの部門が迅速な意思決定を行える体制を整えました。また、人材業界にとどまらず、金融や自治体などの分野へのデータ提供を進め、データ活用の幅を広げる取り組みも行っています。これにより、フロッグは多様な市場での成長を目指しています。
また、私個人としては、権限譲渡にも力を入れています。「個と組織をGoalに導くプロフェッショナルチーム」を創るうえで最も重要なのは、機会と経験だと考えています。私は性格的に、人に仕事を渡したり任せることは得意ではありません。私が介在しないことで会社の利益を損ねるのではないかという不安が、どうしても頭をよぎってしまうからです。とはいえ、仮に売上が5%落ちたとしても、私の価値はその5%分しかないと考えれば、大したことはありません。そればかりか、私以外の人が機会や経験を積むことで、更なる成長に繋がれば、中長期的に大きな意味を持ちます。だからこそ、強制的に出席する会議の数を減らしたり、サポート役に徹したりするようにしています。「育成」というのはおこがましいですが、より多くの人に機会を与えることを意識していますね。
今後の展望と挑戦
今後のフロッグの展望として、データ活用の分野をさらに拡大し、人材業界以外にも進出する計画があります。2年ほど前から進めている金融や自治体向けのデータ提供を強化し、プロジェクトをさらに加速させていきます。
また、私個人はフロッグの代表であるとともに、親会社のゴーリストの取締役でもあります。ゴーリストが掲げる「Glocal10」というビジョンの元に、10社 / 10ヵ国 / 10事業の展開を進めるため、新たな市場での挑戦を続ける予定です。
フロッグの経営のコアにあるのは、メンバーに挑戦の機会を与え、権限を委譲する文化です。4年間の経験を経たからこそ、役割を他者、特に未来を担う若手に任せることが重要だと感じています。これにより、各社員が自ら考え、実行できる環境が整い、組織全体の成長を促進されると考えています。整地された土地は未来を担う若手に任せ、その身ひとつで新天地に突っ込んでいく役割を担うことが、少し年上のビジネスパーソンとしてのあり方なのではないかと考えています。
読者へのメッセージ
自分を大きく見せる必要はありません。見栄を張らず、自然体であることが大切だと思います。私は良くも悪くもサラリーマン経営者なので、創業社長とは考え方が違うかもしれませんが、見栄を張り続けて苦しむぐらいなら、「助けて」と言う勇気を持ち、自分の弱さをさらけ出すことも必要なのではないかと考えています。きっと必要なサポートが得られます。もちろん、経営にはアップダウンがありますが、その両方を楽しむ姿勢が大切です。順調な道だけが成功への道ではありません。常に心の声に正直に、挑戦し続けてください。
まとめ
フロッグは「求人ビッグデータの価値を高める」という明確なビジョンを掲げ、創業から早い段階で求人データの収集に着手し、HR×IT領域でのストック型ビジネスを確立しています。求人ビッグデータの利活用という創業時からの強みが、現在でも独自の強みとして現れていることは、とても印象的です。
また、権限委譲と機会の提供を重視する文化は、社員一人ひとりが自律的に成長するための土台となっており、チームの力を最大化することに注力していることは、後進育成に悩む経営者にとって参考にすべき取り組みのように感じます。
菊池さんの言葉からは、挑戦心を持ち続ける姿勢と、自分を過大に見せることなく自然体でいることの大切さが伝わってきました。今後もデータの力で新しい市場を切り開き、さらなる成長を遂げるフロッグの活躍に注目していきたいと思います。
菊池さん、お忙しい中ご協力いただきありがとうございました。