働く人の「したい」を支える。アローが描く、健康と成長のサイクル
1. いままでのキャリアについて
もともと理学療法士の専門学校に通いながら、格闘技選手を目指していました。中学生の頃から体を鍛えることが好きで、格闘技に夢中だったんです。次第に「鍛える」だけでなく、「支える」側にも興味を持つようになり、医療的な知識を学びながら、体づくりと健康を掛け合わせたサービスを提供したいと考えるようになりました。
卒業後は、病院や介護施設に進む同級生が多い中、私はあえて一般企業のパーソナルトレーニングジムに就職しました。医療とフィットネスの両方を経験することで、自分の理想に近づけると思ったからです。約2年間勤務した後、震災の影響で勤め先が縮小し、独立を決意しました。
半年ほどのブランクののち、以前のジムの利用者だった世田谷区のクリニックの院長から「一室を使ってやってみない?」と声をかけていただき、個人事業主としてフィットネス事業を始めました。これがアローの原点です。
事業は順調で、月100万円の売上を上げるまでに成長しましたが、一人でできることに限界を感じ、友人を誘って法人化しました。ちょうどその友人が結婚を控えていたこともあり、「個人事業主同士で働くより、会社の取締役として一緒に挑戦した方が安心してもらえる」と考えたことが、会社設立のきっかけでした。
ただ、順風満帆ではありませんでした。開業初期には、借りていたクリニックとのトラブルにより3か月で退去を迫られるという危機がありました。資金も新しい場所もない中で、藁にもすがる思いで銀行を回りました。最初は門前払いのような対応を受けましたが、親切な信用金庫の職員が区の制度融資を紹介してくれたおかげで、保証人なし・低金利で資金を確保できました。
周囲の人たちに助けられながら、なんとか事業を継続できたこの経験は、今でも忘れられません。「人は一人では成り立たない。助けてくれた人たちへの恩を、今度は自分が誰かを支える形で返していきたい」この想いが、現在の経営の原点になっています。
2. 会社や事業の紹介
アローの事業は、フィットネスサービスから始まりました。利用者の方々に体づくりの指導を行う中で、「もっと医療的な観点から体を見てほしい」という声をいただくようになり、理学療法士の専門性を生かしたサポートへと発展していきました。
スタジオに通うのが難しい方々のために、訪問型リハビリを始めたのが転機です。軽バンを購入し、利用者の自宅や施設に出向く形でサービスを展開しました。実際に訪問してみると、「医療保険の対象外でもリハビリを続けたい」「体を動かしたいけど方法がわからない」といった切実な声に多く出会いました。そうしたニーズに応える形で、自費訪問リハビリという新しいサービスが生まれました。
さらに活動を続ける中で、健康課題を抱えるのは個人だけではなく「企業」も同じだと気づきました。そこで、従業員の健康状態を調査・改善する健康経営サポート事業を開始。
加えて、福祉用具の販売・レンタル、介護タクシーの運営など、生活を支える事業にも領域を広げてきました。
どの事業にも共通しているのは、「目の前の人の“したい”を叶える」という姿勢です。
アローの成長は、常に利用者や企業の“困りごと”に耳を傾け、必要とされる形に自然に変化してきた結果だと思っています。
3. 経営ビジョンと理念
アローのビジョンは、「なりたい・したいを持つすべての人のために」。この言葉には、年齢や体力、環境に関係なく、誰もが自分の“なりたい姿”を目指していいという想いを込めています。
スタジオ運営を続ける中で、年配の方や介護保険を利用する方から「理学療法士に体を見てもらいたい」「足腰を鍛えたい」といった声を多くいただきました。当時のスタジオは2階にあり、階段の上り下りが難しい方も多かったため、「だったらこちらから行こう」と訪問型のサービスを始めました。
実際に訪問してみると、医療保険の対象外になってもリハビリを続けたいという方や、「もう少し動けるようになりたい」と願う方々にたくさん出会いました。どんな人でも“もっとできるようになりたい”という想いは同じ。その“したい”を支えるのが、私たちの役割だと思っています。
この考え方は、フィットネスやリハビリだけでなく、福祉や健康経営など、すべての事業に通じています。アローは、どんな状況にある人でも、自分らしく前に進める社会をつくりたい、その想いを軸に、事業を広げています。
4. 競合との差別化ポイント
アローの一番の強みは、スタッフ全員が医療専門職であることです。健康に関わるサービスを提供する会社は多いですが、アローでは理学療法士など医療的知識を持つスタッフが直接対応するため、リスク管理や安全性、信頼性の面で高いレベルを維持しています。
また、保健師や産業医との専門的な場面でも同じ立場で議論できる点も大きな強みです。単なる運動指導や健康促進ではなく、医学的根拠に基づくアプローチを行うことで、企業や顧客からの信頼を築いてきました。
5. 現在注力していること
今、特に力を入れているのが健康経営サポート事業です。中小企業にとって人材は何よりの財産であり、一人が体調を崩すだけで現場全体に影響が出ることもあります。だからこそ、社員一人ひとりが健康で、いきいきと働ける環境をつくることを、企業と一緒に支えていきたいと考えています。
最初に行うのは、企業担当者との丁寧なヒアリングです。まず「健康になるために何をすべきか」を一緒に考えるところから始めます。 社員の運動習慣、肩こりや腰痛の有無、仕事への影響度、モチベーション、喫煙率、野菜の摂取状況などをアンケートで可視化し、「どんな人が多いのか」「御社の働き方ではどんな点を優先して改善すべきか」を整理していきます。
そこから、会社ごとに合わせたプログラムを提案します。 たとえば、栄養バランスに関する講座を開催したり、肩こりや腰痛を自分でケアできるストレッチ講座を実施したり。 ときには「みんなで楽しく運動できるゲーム大会」などを企画して、健康づくりを身近に感じてもらう取り組みも行っています。
開催が決まると、社内向けの告知ポスターや予告動画をつくり、自然と参加したくなる雰囲気を演出します。実施後には事後アンケートを取り、どの程度の効果があったかを数値化。担当者が社内で報告しやすいよう、結果レポートの作成までを一貫してサポートしています。
製造業や介護業界など体を使う職種はもちろん、デスクワーク中心のIT企業でも「体の疲れから集中力が続かない」「眼精疲労から頭痛がする」といった声をよく耳にします。
そうした悩みが改善に向かったという声をいただけると、とても励みになります。
「健康経営」は単なる福利厚生ではなく、企業の生産性や組織力を高める“経営戦略”の一つ。 アローは、医療の専門知識をもとに、企業と二人三脚で“健康を仕組み化する”ことに力を入れています。
6. 今後の展望と挑戦
今後は、フィジカルヘルス(身体の健康)の重要性をもっと広めていきたいと考えています。 企業の健康施策というと、メンタルヘルスの取り組みが中心で、法律や制度としても精神面のケアが重視される傾向があります。しかし、肩こりや腰痛、慢性的な疲労といった身体の不調も、日々のパフォーマンスや離職に直結する深刻な課題です。
身体の不調は本人も我慢してしまうことが多く、会社としても「仕方ない」と見過ごされがち。だからこそ、アローとしては“心だけでなく体の健康も守る文化”を企業に根付かせたいと思っています。
今後は、より多くの企業にこの取り組みを広げるとともに、行政や産業医、保健師などとも連携しながら、社会全体でフィジカルヘルスを支える仕組みをつくっていきたい。
身体が健康であることは、すべての挑戦の“土台”になります。社員一人ひとりが心身ともに健康で、自分の「したい」を叶えられる社会、それが、アローが目指す未来です。
7. 読者へのメッセージ
私たちはまだ規模の大きな会社ではありませんが、支えてくださるお客さまや仲間のおかげで、ここまで続けてこられました。 経営を続けていて感じるのは、「人は誰かを助けたい、応援したい」という気持ちを根本的に持っているということです。
だからこそ、自分の“やりたいこと”“したいこと”を言葉にして発信し続けることが大切だと思っています。発信を続けていれば、必ずどこかでその想いを拾い上げてくれる人が現れます。 私自身も、多くの人に助けられてここまで来ることができました。
中小企業の経営者の方々も、どうか遠慮せずに思いを外に出してほしい。「こんな会社にしたい」「こういう社会をつくりたい」――その想いを発信し続けることが、共感を呼び、支援を生み、次の一歩を動かす原動力になると思います。
アローとしても、「なりたい・したいを持つすべての人」を応援する存在であり続けたい。
誰かの“したい”を叶えることで、また次の誰かの“したい”が生まれていく。その循環こそが、これからの社会をもっと明るくしていくと信じています。