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青森から世界へ!国産ヴィーガンレザー「RINGO-TEX」が描く循環型未来

appcycle株式会社

代表取締役

藤巻圭

1. 経営者のキャリア

キャリアの始まりは、美容師でした。青森で生まれ育ち、東京の地域に根ざした美容室で、お客様の髪を切りながら、気づけば親子三代を担当することも。信頼関係のなかで成り立つ仕事にやりがいを感じていた一方で、年齢とともに髪が細くなったり肌に変化が出てきたりすることに悩みを抱えるお客様を目の当たりにして「この悩みを解決するには美容師の力だけでは限界がある」と思うようになりました。例えば、カット技術やトリートメントでは応えきれない髪質や頭皮環境の根本的な悩みに対し、無力さを感じることが増えました。

 

そこから再生医療や化粧品の業界に関心を持ち、医療美容業界に転職しました。医療品の会社で原料開発からOEM、ODMまで幅広く携わっていました。ここでは、科学的根拠に基づく製品開発や品質管理の重要性を学びました。ただ、医療品や化粧品の開発や運営には大きな資金が必要なため、経済性が最重要項目となってしまうことに葛藤がありました。良いものでもコストが見合わなければ製品化が難しい現実に、純粋な想いとビジネスの論理の間で悩みました。

 

そんな中でふと「やっぱり青森に何か恩返しがしたいな」と思い始めたのが38歳のときです。地元・青森のために自分ができることを考えていたタイミングで、シンガポールにいる友人からりんごからできるヴィーガンレザーの存在を教えてもらいました。

 

故郷である青森は、日本で1番の生産量を誇るりんごの名産地です。調べていくうちに、りんごの搾りかすの大量廃棄という課題を知り、このヴィーガンレザー技術がその解決策となり、新たな産業や雇用を生む可能性に気づきました。環境貢献、地域活性化、そして青森のりんごに新しい価値を与えること。これまでの経験で培ってきた「美」への追求、医療業界での「科学的アプローチ」、故郷への「想い」が繋がる感覚がありました。これは青森の産業課題や地方創生そして雇用創出にもつながるものだとわかり「これだ!」と思って動き出したのが、今のappcycleです。

 

 

2. 会社や事業の紹介

青森県は日本一のりんごの生産地ですが、その裏では毎年2万トン以上の“搾りかす”が廃棄されている現実があります。私たちはその廃棄されるはずだった残渣を原料に、環境に優しい国産ヴィーガンレザー「RINGO-TEX(リンゴテックス)」を開発しています。このRINGO-TEXは、りんご残渣を乾燥・粉末化し樹脂と混合してシート状に加工する独自技術で製造され、石油由来原料の使用を抑えています。一般的な合皮のレザーは1、2年で使えなくなってしまうものもありますが、RINGO-TEXは3、4年持つところも素材の魅力のひとつです。

 

このプロジェクトはただの素材開発にとどまりません。農家さんや加工業者、障がい福祉の現場、大学や行政など、さまざまな立場の人たちとの協働で成り立っています。たとえば、廃棄予定だった消防ホースとRINGO-TEXを組み合わせてバッグに仕立てるプロジェクトでは、地域の消防署から提供された使用済み消防ホースを洗浄・裁断し、RINGO-TEXと組み合わせるデザインを考案し、障がいを持つ方々が塗装やデザインの工程を担ってくれています。新しい素材の開発が、地域の人たちの新しい仕事や学びの場にもつながっているんです。

 

私たちは、RINGO-TEXを単なる「素材」としてだけでなく、それが生まれるストーリーや関わる人々の想いを大切にし、りんご農家の方々の想いが形を変えて地域に還元される、そんな循環を目指しています。

 

 

3. 経営ビジョンと理念

appcycleが掲げる理念は、「舞台は地球、チームは世界中」です。地球環境や社会課題に対して、青森からちいさく始まったロールモデルですが、世界をよりよくしていくには地球全体を見ていかなければならないという思いがあります。appcycleが地球環境や社会課題に対峙していくには、地球全体の方々が我々の思いに共感して、一緒に取り組んでもらったり、購入してもらったりするということが必要になると考えています。

 

青森だけでチームをつくるだけではなく、現在各地に5拠点展開しているのも、各拠点にチームをつくりながらどこでもappcycleの取り組みにふれられて、どこでも一緒に活動ができるような環境を目指しているからです。日本だけでなく海外の方にも入ってきていただいて、ボーダレスでダイバーシティな環境づくりを目標にしています。

 

扱っているのは一次産業の課題や環境問題、障がい福祉まで含めた、いわば地球規模のテーマです。社会をよりよくしていくには、地球だからこそ、最初から青森の中だけで完結するビジネスじゃない、という意識でやっています。

 

ただ、僕ら一社でできることは限られます。だから、産学官金労、あらゆる立場の人たちに関わってもらえるプラットフォーマーとして、自分たちが機能することを意識しています。素材開発をきっかけに、福祉の現場や教育の場に仕事が生まれたり、新しいチャレンジができる環境ができたり、そういう循環を地域の中で増やしていくことが、結果的に社会全体の変化につながると思ってます。

地元から地球へ、仲間を巻き込みながら、そのスケールで挑み続けたいと思っています。

 

 

4. 競合との差別化ポイント

正直なところ、既存の皮革産業全般に対して競合だとは思っていないんですね。もちろん、市場には様々な素材が存在し、それぞれに特徴があります。しかし、私たちが目指しているのは、単に素材の機能性や価格で競争することではありません。

 

それよりも僕らがやってるのは、「この素材ができるまでの背景に、どれだけの人が関わっているか」「それがどんな社会的意味を持っているか」というような“文脈ごと伝える”ような価値づくりです。たとえば、障がいのある方が塗装に関わってくれたバッグ、地域の子どもたちが企画に関わった製品、消防ホースの廃材と組み合わせたアップサイクル製品。単に「レザー製品」じゃなくて、「関係性を編み込んだ商品」なんです。お客様がその製品を手に取ったとき、素材の質感だけでなく、その裏側にあるストーリーや、関わった人々の温もりを感じていただけるような製品づくりを心がけています。

 

よく、スターバックスの例を出すことがあるんですが、あそこも「美味しいコーヒーを売ってます」というだけではなくて、「サードプレイス=第三の居場所」としての価値を提供しているじゃないですか。僕らもそれと同じで、「RINGO-TEXを買ってもらうことで、青森の一次産業が元気になる」「障がい福祉の現場に仕事が生まれる」のような、循環そのものを伝えていくことが、自分たちの勝ち筋だと思ってます。

 

だから“原料を売る”“製品を売る”というだけじゃなく、appcycleの輪に参加してもらう、という感覚に近いですね。価格競争でもスペック競争でもなく、「共感」が広がることでブランドが育っていく。それが、他と決定的に違うところかなと思っています。そして、この「共感」は、一過性のものではなく、継続的な関係性を築くための基盤となります。お客様、生産者、地域社会、そして私たちappcycleが、共に価値を創造し、成長していく。そんなエコシステムを構築することが、私たちの目指す差別化の本質です。

 

 

5. 現在注力していること

今後力を入れていきたいのが「新しい雇用を生み出すこと」です。これまでもRINGO-TEXを軸に障がいのある方と一緒にプロダクトづくりをしたり、消防ホースの廃材を使ったアップサイクル製品に取り組んだりしてきましたが、今はそれをさらに発展させて、2025年の夏に向けて新しいプライベートブランドの立ち上げを準備しています。このブランドは、単なる商品展開ではなく、青森から“新しい仕事の形”を提案する取り組みでもあります。現在は、市場調査や試作品製作、協力パートナーとの連携体制構築などを進めています。

 

認知を広めるために、小学生向けに針や糸を使わず安全に作れるワークショップを開いたり、実際にNewsPicksやForbesなど全国メディアでも何度か取り上げてもらうなど、発信を続けています。また、経済産業省の「J-Startup TOHOKU」にも選ばれ、青森県とも包括連携協定を締結しました。これらの認定や協定は、私たちの事業の信頼性を高めるとともに、行政や支援機関との連携を強化し、事業展開を加速させる上で大きな力となっています。

 

この先は、家具やアパレルに加えて、自動車や航空機のシートといった分野への展開も見据えています。最終的には「今治=タオル」と同じように「青森といえばRINGO-TEX」と言ってもらえるような、“産地化”されたブランドに育てたい。そのために、品質基準の確立、安定供給体制の構築、そしてブランドストーリーの発信強化に努めていきます。「RINGO-TEX」という名前を聞けば、誰もが青森の美しい自然や、そこで働く人々の温かさを思い浮かべるような、そんな存在になることが目標です。そして、そこに観光や教育、地域経済が連動していくような未来をつくることが、今の僕たちのチャレンジです。

 

加えて、青森では自社ファームを立ち上げて、りんごの木の栽培もスタートしました。まだ18本だけですが、将来的には原料も自分たちで育て、加工し、販売までつなげていける“循環型のサプライチェーン”を自社で完結できるようにしたいと思っています。この自社ファームは、単に原料を確保するだけでなく、りんご栽培における環境負荷低減の研究や、新たな品種開発、そして農業体験を通じた環境教育の場としての活用も視野に入れています。数十年後には、このファームで収穫されたりんごから作られたRINGO-TEX製品が、世界中で愛用されている――そんな未来を夢見ています。これは長期的な取り組みになりますが、持続可能な社会を実現するための重要な一歩だと信じています。

 

 

6. 今後の展望と挑戦

これからの夢は大きく2つあって、1つ目は上場です。資本主義のフィールドで、ちゃんと勝ちきる。そこで得た資金を、一次産業や障がい福祉、そして次の世代にきちんとつなげてくことを見据えて動いています。上場はゴールではなく、あくまで私たちのビジョンを実現するための手段の一つです。上場によって得られる資金は、RINGO-TEXの生産体制強化や研究開発への投資、国内外への販路拡大、そして共に働く仲間たちの待遇改善やスキルアップ支援などに充当したいと考えています。株主や投資家の方々だけでなく、従業員、地域社会、そして地球環境にとっても価値のある企業成長を目指します。

 

よく「それってNPOでやればいいんじゃないの?」と聞かれることもあります。ですが、NPOだって寄付がなければ運営できないし、やれる範囲も限られてしまう。もちろんNPOの活動は尊く、社会にとって不可欠な存在です。しかし、私たちは持続可能な形で社会課題の解決に取り組むためには、経済的な自立と成長が不可欠だと考えています。利益を追求し、それを再投資することで、より大きなインパクトを生み出し、より多くの人々を巻き込むことができる。だったらいっそのこと、資本主義のど真ん中で戦って、稼いだ資金で自分たちの“本当にやりたいこと”を形にした方がいい。経済性と大義、その両方を成立させることが、自分たちの挑戦の軸なんです。これは決して簡単な道ではありませんが、この困難な挑戦にこそ、新しい時代の企業のあり方を示すヒントが隠されていると信じています。

 

もうひとつの夢は、人の可能性を広げられるような環境をつくること。自分が先頭を走って何かを成し遂げるだけじゃなくて、関わってくれた人たちが、少しでも成長できたり、幸せを感じられたりする場を増やしたい。新しいチャレンジを通して、そういう人が一人でも多く増えて、世の中に広がっていけば、それが次の世代にもちゃんと引き継がれていくはずだと思っています。

 

結局、何をするにも「人と人との関係性」がすべてだと思っていて。特に地方って、想いを口に出さないシャイな人が多かったりもする。でも、一緒に飲んで腹を割って話すと、「実はこんなことに困っててさ」とか「こんな夢があるんだ」って語り始めてくれる。そういう瞬間を積み重ねながら、これまで信頼を築いてきました。これらの経験が、私にとって何よりの財産であり、事業を推進する上での原動力となっています。

 

この先も、何をするにも“人を大切にすること”を一番に置いて、新しい未来を一緒に形にしていけたらと思っています。経済的な成功と社会的な貢献、そして関わる人々の幸福。これら全てを同時に追求し、次世代へと繋いでいくことこそが、appcycleの最大の挑戦であり、存在意義だと確信しています。

 

 

7. メッセージ

僕自身、今やっている事業って、「自分のやりたいことを形にしてる」というよりも、「世の中が必要としてることを代弁している」感覚なんですよね。だから、取り組みを語るときも、自分を前に出すというよりは、社会が求めている声をどう形にしていくか、という視点をすごく大事にしています。

 

美容師をやっていたときもそうでした。自分の理想のスタイルを押しつけるんじゃなくて、お客様がどんなふうに過ごしたいのか、どうなりたいのかを聞いて、それを自分なりに噛み砕いて形にしていく。そのときの姿勢が、今の事業づくりにも活きてると思います。やっぱり相手の声にちゃんと耳を傾けて、その想いをちゃんと形にして届けていく。そういう関係性の積み重ねが、信頼にもつながるし、新しい挑戦を生むんですよね。

 

挑戦っていうと、なんだかすごいことを始めなきゃいけないように思うかもしれないけれど、全然そんなことなくて。「いつもと違うニュースアプリを入れてみる」とか、「行ったことない店に行ってみる」とか「話したことない人と話してみる」とか。ほんと、そのくらいの小さな一歩でいいと思います。今までの習慣をちょっとだけ変えることで、新しい視点が手に入ったり、自分の中の何かが動き出したりする。そういう“きっかけ”を自分で拾いに行くことが、未来を開く一歩になるんじゃないかなと思ってます。