TOP > コラム > 中小企業経営者のためのDX羅針盤:単なる「IT化」で終わらない、事業変革を成功に導く実践ガイド【後編】

売上アップ

中小企業経営者のためのDX羅針盤:単なる「IT化」で終わらない、事業変革を成功に導く実践ガイド【後編】

中小企業経営者のためのDX羅針盤:単なる「IT化」で終わらない、事業変革を成功に導く実践ガイド【前編】の後編です。

DXの理論やステップを理解しても、自社でどのように実践すればよいか具体的なイメージが湧きにくいかもしれません。そこで本章では、様々な課題を乗り越え、DXによって大きな成果を上げた国内中小企業の事例を、業種別・目的別に紹介します。これらの事例は、DXが単なるコスト削減ツールではなく、新たな価値を創造し、企業の未来を切り拓く強力な戦略であることを示しています。自社の状況と照らし合わせながら、成功のヒントを探ってみましょう。

WEBコンサルの支援内容や費用の目安がわかるダウンロード資料

WEBコンサルの支援内容や費用の目安、支援の進め方などがわかるダウンロード資料をご用意しています。WEBコンサルの利用を検討されている方はぜひご参考ください。

先駆者たちに学ぶ – 業種別・目的別に見る国内中小企業のDX成功事例

製造業:生産性と品質管理の革新

製造業は、人手不足や技術承継といった深刻な課題に直面しており、DXによる生産性向上が急務となっています。

 

①品質検査の自動化と効率化【株式会社ヨシズミプレス(金属プレス加工)】

 月間50万個にも及ぶ金属部品の目視検査は、検査員6名で約10日間を要する神経をすり減らす作業でした。同社はAIを活用した外観検査システムを導入。これにより、作業時間 を40%削減することに成功しました。DXは、従業員の負担軽減と品質の安定化を両立さ せることを可能にしました。

参考:中小企業のDX推進の成功事例13選!成功企業の共通点まで紹介 | Union Media

https://union-company.jp/media/dx-promotion-minor-enterprise/

 

②付加価値の創出とビジネスモデル転換【株式会社山本金属製作所(機械加工)】

  同社は単なる部品加工からの脱却を目指し、機械加工を行う刃先にセンサーを取り付け、加工データをリアルタイムで計測する取り組みを開始しました。これにより蓄積されたデータを分析し、顧客に対して最適な加工条件を提案するという、データに基づいた新たなコンサルティングサービスを創出。従来の「モノづくり」から、データを活用した「コトづくり」へとビジネスモデルを変革させた先進的な事例です。

参考:中堅・中小企業等における DX 取組事例集 – 経済産業省

https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/investment/dx-chushoguidebook/tebiki2.0archives.pdf

 

③事業環境の変化への対応【株式会社丸秀(自動車部品製造)】

  EV(電気自動車)シフトという業界の大きな構造変化に対し、危機感を抱いた同社は、スマートファクトリー化を推進。IoTやAIを活用して生産プロセスを最適化し、変化に対応できる強靭な経営基盤を構築しました。

参考:中小企業のデジタル活用・DX事例集 – 東京商工会議所

https://www.tokyo-cci.or.jp/digital-support/jirei/

建設業:現場の効率化と安全性向上

紙文化が根強く残る建設業界でも、DXは業務効率を劇的に改善し、安全性を高めるための鍵となっています。

 

①現場管理の高度化【株式会社岡田建設(総合建設)】

 広大で複雑な建設現場の状況把握は、人手では限界がありました。同社はドローンを導入し、現場の測量や進捗確認に活用。人が立ち入れない場所の状況もリアルタイムで正確に把握できるようになり、管理業務の効率と安全性が大幅に向上しました。

参考:建設DXの事例13選!メリットや課題、進まない理由もあわせて解説 | アイピア

https://aippearnet.com/column/constructiondx/kensetsudx-2/

 

②設計・施工プロセスの最適化【株式会社白石建設(総合建設)】

 建築物の3Dモデルを設計段階から作成するBIM(Building Information Modeling)を導入。設計図の不整合を事前に発見し、施工段階での手戻りを削減。設計から施工まで一貫したデジタルデータ活用により、プロジェクト全体の生産性を高めることに成功しています。

参考:建設DXの事例13選!メリットや課題、進まない理由もあわせて解説 | アイピア

https://aippearnet.com/column/constructiondx/kensetsudx-2/

 

③情報共有の迅速化

ある建設会社では、紙ベースだった施工報告書を、スマートフォンやタブレットで入力・共有できるクラウド型の施工管理システムに置き換えました。これにより、報告書作成にかかる時間が50%短縮され、管理者は現場に行かなくてもリアルタイムで進捗を把握できるようになりました。

参考:コストをかけずにDXを導入!中小企業が今すぐ始めるべきデジタル戦略

https://dx-king.designone.jp/DX-SMEs

 

小売・卸売業:新たな販路開拓と顧客体験の創造

消費者の購買行動が多様化する中、小売・卸売業にとってDXは新たな顧客接点を生み出し、ビジネスを成長させるための不可欠な戦略です。

 

①ECへのシフトとニッチ市場の開拓【株式会社奥山(生地織物販売)】

 実店舗中心の販売形態からECサイト運営に注力。コロナ禍で実店舗の売上が激減した際も、ECの売上でカバーすることに成功しました。特に、オリジナルの衣装づくりがコスプレイヤーの間で口コミで広がり、ニッチながらもグローバルな市場を開拓。DXが事業のレジリエンス(回復力)を高めた好例です。

参考:【中小企業編】DX成功事例7選!成功する企業の特徴も紹介 – VENECT(ヴェネクト) 

https://www.venect.jp/blog/2334/

 

②国内市場縮小への対応と海外展開【株式会社TATAMISER(畳製品販売)】

 フローリング化の進展で国内の畳需要が減少する一方、海外での需要増加に着目。多言語対応の販売アプリを自社開発し、海外市場への活路を見出しました。縮小する市場から成長する市場へと、DXを駆使してビジネスの主戦場をシフトさせた戦略的な事例です。

参考:中小企業のDX推進の成功事例13選!成功企業の共通点まで紹介 | Union Media

https://union-company.jp/media/dx-promotion-minor-enterprise/

サービス業:業務改革と新規事業創出

サービス業におけるDXは、業務効率化にとどまらず、蓄積されたデータを活用して全く新しいビジネスを生み出す可能性を秘めています。

 

①ビジネスモデルの根本的変革と多角化経営【グランド印刷株式会社(印刷業)】

  この事例は、中小企業DXの理想形の一つと言えます。広告代理店の下請けから脱却し、エンドユーザーと直接取引するビジネスモデルへ転換。さらに、Webサイトでの通販事業を開始し、営業の属人化を解消しました。特筆すべきは、受注から生産、請求まで全ての情報を一元管理する独自の基幹システムを開発した点です。このシステムで蓄積された顧客データを分析し、年間2〜3件の新規事業を創出する仕組みを構築。コロナ禍においても過去最高の売上を記録するなど、DXを起点とした好循環を生み出しています。

参考:2024年版「中小企業白書」 第7節 DX(デジタル・トランスフォーメーション)

https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2024/chusho/b1_4_7.html

 

②経営危機からの再生【株式会社陣屋(旅館業)】 

 倒産寸前の経営危機に瀕した同社は、予約管理、顧客情報、従業員の勤怠管理などを全て統合した独自のクラウドシステム「陣屋コネクト」を開発。徹底的な情報共有と業務効率化により、収益性を劇的に改善させました。現在ではこのシステムを他の旅館にも販売し、IT企業としての一面も持つに至っています。

参考:中小企業が取り組んでいるDX化の成功事例5選!課題や成功ポイントを徹底解説!, 

https://service.customedia.co.jp/marketing/dx-smaller_companies/

 

③データドリブン経営への転換【浜松倉庫株式会社(倉庫業)】

 BI(Business Intelligence)ツールを導入し、倉庫内の様々なデータを分析・可視化。これにより、業務のボトルネックを特定し、改善サイクルを高速化。結果として、営業利益率を4.5%向上させることに成功しました。

参考:中小企業のDX推進の成功事例13選!成功企業の共通点まで紹介 | Union Media

https://union-company.jp/media/dx-promotion-minor-enterprise/

 

これらの事例に共通しているのは、いずれも「最新技術の導入」からではなく、「自社の経営課題の解決」からスタートしている点です。経営者が自社の課題を深く理解し、それを解決する手段としてデジタル技術を活用したからこそ、大きな成果につながっています。DXは、伝統的な業種をデータ活用企業へと変貌させ、全く新しい価値を生み出す力を持っているのです。

 

組織という「人」を動かす – 経営層の理解と現場の協力を得る方法

DXの成功を左右する最大の要因は、最新のテクノロジーではなく、「人」です。どれほど優れたシステムを導入しても、それを使う経営層がその価値を理解せず、現場の従業員が変化に抵抗すれば、変革は進みません。DXは技術的なプロジェクトであると同時に、極めて人間的な「チェンジマネジメント」のプロセスです。本章では、中小企業という組織の特性を踏まえ、経営層の強力な支持を取り付け、現場の不安を乗り越えて協力を得るための具体的な方法論を探ります。

 

抵抗勢力が生まれる「なぜ?」を理解する

DX推進の過程で、反対意見や消極的な態度が生まれるのは自然な反応です。それを単なる「抵抗勢力」として排除するのではなく、なぜそのような反応が生まれるのか、その根本原因を理解することが第一歩です。主な原因は、以下の4つに大別できます。

 

①変化への不安と恐怖

 人間は本能的に現状を維持しようとする「現状維持バイアス」を持っています。「新しいシステムを覚えられるだろうか」「AIに自分の仕事が奪われるのではないか」といった、自身の能力や将来の役割に対する根源的な不安が、変化への抵抗につながります。

 

②現状への固執と complacency(自己満足)

 「今のやり方で問題なく業務は回っている。なぜ変える必要があるのか」という意見も根強くあります。特に、長年の経験で成果を上げてきたベテラン社員ほど、既存のやり方への愛着が強く、変化の必要性を感じにくい傾向があります。

 

③目的の不理解と情報不足

 経営層がDXのビジョンや目的を十分に伝えていない場合、従業員にとっては「またトップの思いつきだろう」「何のためにやるのか分からない」と、やらされ仕事に感じてしまいます。コミュニケーション不足が、不信感や無関心を生み出すのです。

 

④過去のIT導入の失敗体験

 「5年前に導入したシステムは、結局誰も使わずに無駄になった」といった過去の失敗体験は、組織に深いトラウマを残します。「今回もどうせ同じことになる」という懐疑的な見方が、新たな変革への強いアレルギー反応を引き起こします。

 

戦略1:経営層を「説得」し、強力な味方につける

DX推進担当者にとって、最初の関門は経営層、特に社長の完全な理解とコミットメントを得ることです。経営層を動かすためには、以下の点を意識したコミュニケーションが不可欠です。

 

①技術の言葉ではなく、経営の言葉で語る

 APIやクラウドアーキテクチャといった技術的な詳細を語るのではなく、その投資が「なぜ今必要なのか」「どのように事業成長に貢献するのか」を、中期経営計画や経営課題と結びつけて説明します。ROI(投資対効果)、競争優位性の確保、事業リスクの低減といった、経営者が関心を持つ言葉に「翻訳」することが重要です。

 

②データとストーリーで未来を可視化する

 客観的なデータを示しつつも、それに魂を吹き込むストーリーを語ります。「このシステムを導入すれば、〇〇の業務時間が$50%削減でき、その時間を新商品開発に充てることで、3年後には売上を10%向上させることができます」といった、具体的で魅力的な未来像を提示し、経営者の心を動かします。

 

③リスクを抑えた提案を行う

 全てを一度に変える壮大な計画ではなく、前章で述べた「スモールスタート」を提案します。小さな投資で始め、早期に成果を示すことで、経営層の不安を和らげ、次の投資への意思決定を促します。

 

戦略2:現場の「共感」を得て、変革の主役にする

経営層の支持を得た後は、変革の実行者である現場の従業員を巻き込んでいく必要があります。トップダウンの指示だけでは、現場は動きません。「共感」を生み出し、従業員が主体的に変革に参加する環境を作ることが鍵となります。

 

①「なぜ変えるのか」を、経営者自身の言葉で繰り返し伝える

 DXのビジョン、そしてそれが従業員一人ひとりにとってどのようなメリットをもたらすのか(例えば、単純作業の削減、残業時間の短縮、新しいスキルの習得機会など)を、経営者が情熱を持って語り続けることが不可欠です。

 

②現場を巻き込み、共に創る(共創)

 システムの導入やプロセスの変更を一方的に押し付けるのではなく、計画の初期段階から現場の従業員を巻き込みます。ワークショップなどを開催し、「今、何に一番困っているか」「どうすればもっと良くなるか」といった現場の生の声に耳を傾け、それを解決策に反映させます。これにより、従業員は変革を「自分ごと」として捉えるようになります。

 

③小さな成功を称賛し、共有する

  スモールスタートで得られた成功体験を、全社で積極的に共有し、称賛します。「〇〇部署が新しいツールで報告業務を半減させた」といった具体的な成功事例は、他の部署の従業員にとって最も説得力のあるメッセージとなります。成功体験を共有するモデルチームを作ることも有効です。

 

中小企業において、経営者の影響力は絶大です。この特性は、変革を進める上で強力な武器となり得ます。経営者がチェンジマネジメントの重要性を理解し、自らが先頭に立って粘り強く対話を重ねることで、大企業よりも速いスピードで組織を変革することが可能です。抵抗は障害ではなく、むしろ対話のきっかけであり、計画の弱点を教えてくれる貴重なフィードバックだと捉えること。その姿勢こそが、組織全体を動かす原動力となるのです。

 

独りで悩まない – 徹底活用したい国の補助金・専門家派遣制度

中小企業のDX推進を阻む二大障壁である「予算」と「人材(ノウハウ)」。多くの経営者が、この課題を前にして独りで悩みを抱え込んでいます。しかし、その必要はありません。国や地方自治体は、中小企業のDXを強力に後押しするため、金銭的な支援(補助金・助成金)と、専門的な知見を提供する支援(専門家派遣)という、二つの強力なサポート体制を整備しています。これらの制度は、いわば中小企業のための「DXスターターキット」です。本章では、これらの公的支援制度を戦略的に活用し、DXのハードルを乗り越えるための具体的な方法を解説します。

 

Part 1:資金の壁を乗り越える「補助金・助成金」

DXには初期投資が伴いますが、その負担を大幅に軽減できる補助金制度が多数存在します。自社の目的や規模に合わせて適切な制度を選択し、活用することが重要です。

 

①IT導入補助金

・目的:ソフトウェア、クラウドサービス、PC・タブレット等のハードウェア導入を支援する、最も代表的な補助金です。「スモールスタート」に最適で、多くの中小企業が最初に活用を検討すべき制度です。

・特徴: 会計ソフトや受発注システム、決済ソフトなど、インボイス制度への対応を目的とした「インボイス枠」では、小規模事業者であれば最大で補助率が4/5(補助額50万円以下の部分)になるなど、手厚い支援が特徴です。2025年版では、IT活用の定着を促すコンサルティング費用なども対象経費に加わりました。

 

②ものづくり補助金(ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金)

・目的: 革新的な製品・サービスの開発や、生産プロセスの省力化に必要な設備投資を支援します。製造業だけでなく、幅広い業種が対象です。

・特徴: DXに関連する取り組みを重点的に支援する「成長分野進出類型(DX・GX)」が設けられています。この枠で採択されると、通常の類型よりも補助上限額や補助率が優遇さ

れます。AIやIoTを活用したシステム開発など、より高度なDX投資に適しています。

 

③事業再構築補助金

・目的: ポストコロナ時代の変化に対応するため、新分野展開や事業転換、業態転換など、思い切った事業再構築を支援する大規模な補助金です。

・特徴: システム構築費だけでなく、建物の改修費や広告宣伝費など、幅広い経費が対象となります。ビジネスモデルそのものを変革するような、真の「トランスフォーメーション」を目指す野心的なDXプロジェクトに活用できます。

 

④小規模事業者持続化補助金

・目的: 従業員数の少ない小規模事業者が、販路開拓や業務効率化に取り組む際の経費を支援します。

・特徴: Webサイトの作成や改良、新たな顧客管理システムの導入など、比較的小規模なDXの取り組みに活用しやすい制度です。

 

これらの補助金を申請する過程は、単なる手続きではありません。例えば、ものづくり補助金や事業再構築補助金の申請には、詳細な事業計画書の作成が必須です。これは、自社の現状を分析し、将来のビジョンを描き、投資計画とその効果を予測するという、まさに本稿で述べた「DX戦略策定」のプロセスそのものです。つまり、補助金申請のプロセス自体が、自社のDX戦略を練り上げる絶好の機会となるのです。

 

Part 2:ノウハウの壁を乗り越える「専門家派遣制度」

「何から始めればいいかわからない」「社内に詳しい人間がいない」といった人材・ノウハウ不足の課題には、公的機関が提供する専門家派遣制度が有効です。

 

・概要: 全国の商工会議所や、都道府県が設置する中小企業支援センター、よろず支援拠点などが、中小企業診断士やITコーディネータといった専門家を、無料または非常に安価な費用で派遣する制度を運営しています。

 

・活用例

①DX計画の策定支援

 「自社に合ったDXの取り組みを相談したい」「IT化のために社内業務を見直したい」といった初期段階の相談に乗ってもらい、具体的な計画策定の支援を受けることができます。

 

②ツール選定のアドバイス

 自社の課題をヒアリングしてもらった上で、最適なITツールの選定について客観的なアドバイスを受けることができます。

 

③導入後のフォローアップ

 ツール導入後の活用方法や、さらなる改善に向けたフォロー アップ支援を行っている機関もあります。

 

・過去の取り組み: かつては「中小企業デジタル化応援隊事業」のように、フリーランスのIT専門家と中小企業をマッチングし、コンサルティング費用を国が補助する事業も存在しました。これは、国が中小企業のDXにおける専門家活用の重要性を認識している証左です。

 

これらの支援制度は、まさに車の両輪です。専門家派遣制度を活用して実現可能なDX計画を策定し、その計画を実行するための資金を補助金で確保する。この「専門家+補助金」という組み合わせを戦略的に活用することで、中小企業は自社だけでは乗り越えられなかったDXの壁を突破し、変革への道を力強く歩み始めることができるのです。

 

変革への第一歩 – 明日から始めるアクションプラン

ここまで、中小企業が直面するDXの現実から、具体的な推進ステップ、成功事例、そして活用可能な支援制度までを網羅的に解説してきました。DXは、遠い未来の話でも、一部の大企業だけのものでもありません。それは、変化の激しい時代を生き抜き、未来を切り拓くための、全ての企業にとっての現在進行形の経営戦略です。壮大な旅も、最初の一歩から始まります。このコラムを読み終えた今、変革への第一歩を踏み出すための具体的なアクションプランを提案します。

DXの本質を再確認する

最後に、最も重要なメッセージを繰り返します。DXの本質は、テクノロジーを導入することではありません。それは、デジタル技術を「手段」として活用し、自社のビジネス、組織、そして文化を変革し、顧客に新たな価値を提供し続けることです。それは一度きりのプロジェクトではなく、終わりなき改善と成長の旅路です。この本質を忘れず、恐れずに、しかし着実に、その第一歩を踏み出しましょう。

 

明日から始める「最初の3つのアクション」

壮大な計画は不要です。まずは、以下の3つの小さなアクションから始めてみてください。

 

①経営チームで「なぜDXが必要か?」を議論する(所要時間:1時間)

 ソフトウェアのカタログを開くのはまだ早いです。まずは社長と主要な役員・管理職で集まり、「我々のビジネスにおける最大の課題は何か?」「5年後、お客様にどのような価値を提供していたいか?」を話し合ってください。議論のたたき台として、経済産業省の「DX推進指標 自己診断フォーマット」を活用するのも良いでしょう。目的を共有することが、全ての始まりです。

 

②最初の「スモールスタート」を1つだけ決める(所要時間:30分)

 ステップ1の議論で見えてきた課題の中から、最も身近で、かつ効果が出やすそうなテーマを1つだけ選びます。それは「紙の日報を電子化する」ことかもしれませんし、「社内の情報共有にビジネスチャットを試してみる」ことかもしれません。目標は「今後90日以内に、この1つの課題を解決する」と具体的に設定します。

 

③地域の公的支援機関に、無料相談を予約する(所要時間:15分)

 自社の地域の商工会議所や、よろず支援拠点、中小企業振興公社などのウェブサイトを検索し、専門家相談の窓口を探してください。そして、「DXの第一歩について相談したい」というテーマで、無料相談を1回予約します。ステップ1と2で考えたことを専門家に話すだけで、思考が整理され、次に見える景色が大きく変わるはずです。

 

まとめ

DXの道のりは、決して平坦ではありません。しかし、本稿で紹介したように、その道を照らす羅針盤(ロードマップ)は存在し、旅を支える仲間(専門家)や装備(補助金)も用意されています。変化を恐れず、まずは小さな一歩を踏み出すこと。その一歩が、やがて大きなうねりとなり、あなたの会社をより強く、よりしなやかな、未来を勝ち抜く企業へと変革させていくはずです。その挑戦を始めるのに、早すぎることも、遅すぎることもありません。始めるなら、今です。

 

この記事を書いた人
加藤 英里

新卒で入社したリクルートにて、地域振興事業の立ち上げから推進まで9年間従事。プロモーション企画立案、ご当地グルメプロデュース、イベント主催などの他、講演やセミナー講師も務める。2014年5月から現職。BtoB・BtoC問わず、病院・結婚式場・メーカー・レジャー施設などのWEB集客コンサルティングに従事。

関連するおすすめコラム