組織が強くなる人事ポリシーの作り方|6つの要素と運用方法を解説

人事ポリシーは、人材マネジメントの「核」です。しかし、多くの企業で人事ポリシーの作成や運用に、課題を抱えていることも実情です。そこで本記事では、効果的な人事ポリシーの作り方から運用まで解説します。
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人事ポリシーの役割と重要性
まずは、人事ポリシーの基本について見ていきましょう。人事ポリシーの役割と重要性は、以下の通りです。
人事ポリシーとは
人事ポリシーとは、組織における「人材マネジメントの基本方針」を示したものです。採用から育成・評価・処遇といった、人事施策に対する内容を総合的に定めており、組織としての一貫性を維持するために重要な指針だといえます。また人事ポリシーは、単なるルールやマニュアルを記載したものではありません。組織の価値観や目指すべき方向性を明確に示し、全社員が共有すべき基本的な考え方を提示したものです。
人事ポリシーの重要性
適切な人事ポリシーは、経営戦略の達成に向けて、社員やチームを適切な方向に導きます。人事ポリシーには、組織の方向性や理想とする社員像が明記されており、昇進・評価・採用などの人事判断において、一貫した意思決定が可能だからです。人事ポリシーがあることで、組織で共通の価値観や目標を共有でき、一体感のある組織作りにつながるでしょう。全社員が同じビジョンのもとで協力し合うことで、効果的な経営戦略を推進できます。
人事ポリシーの基本構成
ここでは、人事ポリシーの基本構成について解説します。人事ポリシーを作る際には、以下の構成要素を意識することが大切です。
目指す組織像
企業が目指す理想の組織像を指します。人事ポリシーの根幹であり、経営理念や事業ビジョンと、密接に連動することが特徴です。たとえば、「失敗を恐れず挑戦する文化」や「多様な価値を認め合い、個々の強みを活かせる職場」といった具体的な組織像を描きます。
目指す組織像は、人事判断の基準としても機能します。採用面接での評価軸や、昇進・昇格の判断基準、人材育成プログラムの設計指針など、活用される場面はさまざまです。また、応募者に対して企業文化を明示することで、入社後のミスマッチを防ぎ、適切な人材獲得にもつながります。社内においては、評価制度や報酬制度の設計にも反映され、一貫した人材マネジメントを実現する基盤となります。
求める社員像
目指す組織像(=企業が目指す理想の姿)を実現するには、実現に向けて動ける人材が必要です。ここでは、どのような人材が必要かについて、具体的に定義します。求める社員像の定義では、業務遂行に必要なスキルセットだけでなく、価値観や行動特性も明確にしましょう。「自ら課題を見つけ、解決策を提案できる人材」や「多様な価値観を持つメンバーとも柔軟にコミュニケーションを図れる人材」など、できるだけ詳細な形で示すことが大切です。
また求める社員像は、採用基準としての役割にとどまりません。既存社員に対しても、目指すべき人材像を示すことで、評価基準や育成方針の指針となり、組織全体の成長に寄与します。
6つの構成要素
人事ポリシーには、人材マネジメントを構成する要素として、6つの重要な要素(採用・配置・教育・評価・処遇・代謝)が存在します。それぞれの要素で方針を明確にすることで、一貫した施策の検討が可能になります。まず採用では、求める社員像に基づき、選考基準とプロセスを設計。配置では、社員のキャリアプランを踏まえた配置など、適材適所の実現に向けた方針を定めます。教育面では、スキル開発とキャリア形成を支援するプログラムについて、方針を明確にしましょう。
評価制度では、成果主義と行動評価を組み合わせ、公平性と成長を支援します。処遇では、社員満足度アップを目指し、適切な報酬や福利厚生を設計。最後に、組織の新陳代謝を維持すべく、退職や異動の基本方針を定め、個人と組織に有益な施策を展開します。
人事ポリシー作成のステップ
つづいて、人事ポリシーの作成方法について紹介します。以下のステップに沿って作成してみましょう。
①目指す組織像と求める社員像を明確化
人事ポリシー作成の第一段階では、ポリシー全体の基盤となる「目指す組織像」と「求める社員像」を明確にします。その際に、経営理念や企業ビジョンを踏まえて定めます。当段階では、経営陣や人事部門だけでなく、各部門の管理職も巻き込んだ議論が重要です。現場の実態を熟知する管理職の意見を取り入れることで、実践的なポリシーを策定できるでしょう。
具体的には、「3年後、5年後にどのような組織でありたいか」「実現に向けて必要な人材とは?」といった観点で検討を進めます。抽象的な理想論に終始せず、「新規事業の立ち上げに積極的な組織」「データドリブンな意思決定ができる人材」など、具体的な表現を心がけましょう。業界動向や競合他社の状況も参考にしつつ、自社の独自性を反映させることも大切です。現在の組織文化や価値観との整合性も、重要ポイントです。急激な変革を目指すのではなく、段階的に進化させることで、社員の理解を得やすくなります。
②現状の課題を抽出
理想の姿が定まれば、次は現状の把握です。社員アンケート・管理職へのヒアリング・人事データの分析などを通じ、組織が抱える課題を明確にします。たとえば、「若手社員の早期退職が多い」「部門間の人材交流が少ない」「評価基準が不明確」など、具体的な課題を抽出します。
課題を理想像と照らし合わせることで、優先的に取り組むべき施策が見えてくるでしょう。また、社員のリアルな声を集めることで、実効性の高いポリシー作成が可能となります。課題の分析では、定量・定性的の両側面からアプローチすることが重要です。離職率や従業員満足度調査の結果といった数値データに加え、「退職時の面談内容」や「日常的な社員からの要望」も、貴重な情報源となります。
③ポリシーの内容を策定
現状分析で抽出した課題に対し、6つの構成要素(採用・配置・教育・評価・処遇・代謝)に基づき、具体的な施策方針を設計します。設計では、各施策が矛盾せず、一貫性を維持させることが重要です。たとえば、「チャレンジを推奨する文化」を掲げるなら、評価制度でも「失敗を責めない仕組み」を整えるとよいでしょう。教育面では挑戦を支援する研修プログラムを用意し、処遇面でも「挑戦を評価する報酬制度」を設計するなど、各要素が相互に補完し合う形が理想です。
策定したポリシーは、短期的な成果だけでなく、中長期的な組織の成長も考慮します。たとえば人材育成においては、即効性のある研修だけでなく、将来のリーダー育成を見据えたプログラムも検討しましょう。採用においても、現在の人材ニーズだけでなく、将来的な事業展開を見据えた人材確保も考慮します。定期的な見直しも実施することで、環境変化に対応できる柔軟なポリシーとなるでしょう。
④文章化と周知方法を検討
最後に、策定したポリシーを文書化します。文書としてまとめる際には、簡潔かつ明確な表現を心がけ、実際に行動指針として機能するよう工夫します。あいまいな表現は避け、誰が読んでも解釈が一致する表現を選びましょう。完成したポリシーは、社内説明会の開催やイントラネットでの公開など、全社員が確実に理解できる方法で周知させます。新入社員研修や管理職研修などの機会も活用し、継続的な浸透を図ることも重要です。
人事ポリシーの運用と改善
人事ポリシーは、現場での実践と継続的な改善があってこそ、真の効果を発揮します。人事ポリシーの運用と改善について、詳細は以下の通りです。
運用プロセスの整備
人事ポリシーを定着させるには、管理職や現場リーダーが、実務に落とし込める仕組みが必要です。まず、管理職に対して説明会を実施し、ポリシーの意図や運用方法を共有します。その際に、現場の懸念点や課題を解消することが重要です。
次に、現場でポリシーを実践できるよう、評価面談や1on1ミーティングなどの具体的な機会を設定します。部門ごとに、運用ガイドラインを作成することもおすすめです。また、管理職間で情報交換の場を設け、運用上の課題や成功事例を共有することも重要です。情報交換の場では、部門を越えた学び合いを促進し、水平展開も図ります。人事部門は、必要に応じて、運用に関する「専門的なアドバイス」を提供するとよいでしょう。
フィードバックを活用した改善
人事ポリシーの効果を維持するには、運用方法に関する継続的な改善が欠かせません。四半期ごとの社員アンケートや年2回の満足度調査などを活用し、ポリシーの浸透や実践状況について、定期的に把握しましょう。
部門ごとの定期レビューでは、現場の声をヒアリングし、運用上の問題や改善が必要な点を明らかにします。収集した情報は人事部門で分析し、必要に応じてポリシーの修正や運用方法の改善を実施します。具体的には、「評価制度の運用ルール」「教育プログラムの内容」「異動・配置の基準」などを見直すとよいでしょう。改善した運用方法は、迅速に現場へフィードバックしたうえで、PDCAサイクルを回し続けることが大切です。
見直しのタイミング
人事ポリシーの定期的な見直しは、年1回ペースが基本です。定期的な見直し以外にも、組織の成長や外部環境の変化に応じて、適切にアップデートする必要があります。「事業計画の大幅な変更」「組織構造の改革」「法制度の変化」「M&Aによる組織統合」など、重要な転換期には、臨時の見直しを実施します。
しかし、頻繁な変更は現場の混乱につながることもあり、ポリシーの信頼性を損なう可能性があるでしょう。そのため、見直しの判断は慎重に行い、変更する場合には十分な準備期間を設けます。同時に、関係者への丁寧な説明や、スムーズな移行に向けた計画も必要です。改定後は、新たなポリシーの趣旨や変更点について、すべての関係者に対する周知を徹底します。
内製化と外注を使い分けるポイント
人事ポリシーを作る方法は、自社で行う内製と、外部に依頼する外注の2種類です。ここでは、両者のメリットと使い分けのポイントを解説します。
自社設計のメリット
人事ポリシーを自社で設計するメリットは、組織の価値観や文化について、的確に反映できる点にあります。経営層から現場まで、多様な立場の意見を取り入れながら作成することで、実情に即した実効性の高いポリシーを作成できるでしょう。また、策定プロセスそのものが、組織の一体感を高める機会となり得ます。
コスト面でも、外部委託と比べて費用を抑えやすいでしょう。また、社員自身が人事ポリシーの作成に関わることで、当事者意識が高まりやすく、運用段階でのスムーズな浸透も期待できます。多くの社員が「理想の組織」について考え、共通認識を形成できることも、自社設計ならではのメリットだといえます。
外注を依頼するメリット
初めて人事ポリシーを作成する企業や、組織内での意見がまとまりにくい企業では、外部への依頼が効果的です。人事ポリシー作成が未経験の企業は、経験豊富な専門家の知見を活用することで、基本的な枠組みから運用ルールまで、効率的に用意できるでしょう。組織内で意見がまとまらない場合も、第三者の客観的な視点で進めれば、意見の形成がスムーズになります。
社内リソースが不足する場合や、大規模な見直しが必要な際も、外部支援の検討が必要です。また、短期間で人事ポリシーを用意する場合にも、専門家のサポートが不可欠だといえます。「他社の成功事例」や「業界動向」を踏まえた提案を受けられることも、外注のメリットです。
主な外注手段は3つ
主な外注手段は、「人事コンサルティング会社」「組織開発コンサルティング会社」「フリーランスの専門家」の3つです。人事コンサルティング会社は、豊富な支援実績とトータル的な知見を保持し、人事ポリシーの全体設計から各種制度との連動まで包括的にサポートします。大規模な組織改革や、制度設計を伴う企業にも適するでしょう。
組織開発コンサルティング会社は、組織文化や目指す組織像の具体化に強みを持ちます。企業の価値観や独自性を重視したポリシーを作成し、組織の変革を支援します。
フリーランスの専門家は、柔軟な対応と費用面での利点が特徴です。部分的な支援や、文書作成のサポートなど、限定的な依頼も可能です。
外注する場合のポイント
自社に合った外部業者を選ぶ場合、ポイントを踏まえる必要があります。まずは、外部業者の支援実績や専門分野をチェックし、自社が抱える課題に対して「具体的な解決策を提示できる実力があるか」を見極めます。組織の規模や業界特性を理解し、適切なアプローチを提案できる専門性も、チェックしたいポイントです。
また、複数社に問い合わせ、サービス内容や費用を比較することも推奨します。ほかにも、人事ポリシーの作成では密接なコミュニケーションが必要なため、自社との相性や円滑な意思疎通が図れることも重要です。人事ポリシーは、作成後の定期的な見直しも必要なことから、作成後のフォローアップ体制もチェックするとよいでしょう。
おわりに
人事ポリシーは、組織の成長と発展を支えるために欠かせない「人材マネジメントの基本方針」です。適切に設計・運用された人事ポリシーは、社員一人ひとりの信頼を高め、組織全体の一体感を醸成します。採用・育成・評価まで、一貫性のある人事施策の展開を可能にし、経営目標の達成を後押しします。
本記事で解説した作成手順や運用方法を参考に、自社の実情に合った人事ポリシーを策定するとよいでしょう。なお、内製化と外注については、自社のリソースや課題に応じて、適切に判断することが重要です。初めての作成や大規模な改定では、外注の活用を推奨します。
また人事ポリシーは、作っておわりではありません。現場の声に耳を傾けつつ、継続的な改善を行うことで、自社に最適なポリシーへと進化させられます。
経営陣・人事部門・現場が一体となって取り組むことで、自社の持続的発展を実現する「効果的な人事ポリシー」を用意できるでしょう。