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意欲を向上させる報酬制度の設計方法|5ステップでわかる導入のコツ

モチベーションの低下は、生産性や定着率の悪化など、深刻な問題に発展しがちです。課題解決には、「頑張りが認められた」と実感できるよう、適切な報酬制度が必要です。本記事では、意欲向上につながる「報酬制度の設計方法」を解説します。

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報酬制度とは

報酬制度とは、従業員の働きに対して支払う、給与やボーナスなどの仕組み全般のことです。毎月の給与となる基本給を中心に、業績に応じて支給される成果報酬、成果に対して付与するインセンティブ、福利厚生などで構成されます。

各要素を適切に組み合わせることで、従業員の生活基盤を支えつつ、業績向上への意欲を引き出します。また、適切な報酬水準を設定することで、従業員の納得感公平性のある人事制度にもつながるでしょう。近年では、年功序列型から「成果や能力に応じた報酬制度」に移行する企業が増えており、柔軟で効果的な制度設計が必要です。

報酬制度がもたらす効果

「給与さえ支払えば社員は満足」「他社より高い給与水準だから大丈夫」などと考える人もいるでしょう。しかし報酬制度がない場合を放置すると、企業にとって本当に有用な人材に対して報酬で報いることが出来ずに社員の頑張りを適切に評価できない可能性があり、人材が流出する問題が発生する恐れもあります。

一方で適切な報酬制度を用意する企業は、社員の頑張りを報酬に反映でき、各自の意欲も高めやすく、定着率向上にもつながるでしょう。適切な報酬制度が設計されているとは、採用時の給与決定の根拠も説明しやすく、求職者に納得感を持たせることができるため、競合他社との差別化要因となり、採用力向上も期待できます。

報酬制度の基本構成

報酬制度を設計する前に、報酬制度の基本構成を理解することが大切です。ここでは、報酬制度の基本構成を解説します。

報酬制度の主な要素

基本給

基本給は、毎月一定額として支給される報酬であり、社員の生活基盤を支えるベースです。報酬は、基本給という「固定的な要素」と、成果報酬やインセンティブなどの「変動的な要素」で構成されています。 また基本給は、職務・役割・経験年数などに応じて設定されるケースが多く見受けられます。社員の成長に応じて、適切に基本給をアップさせることで、各自のモチベーションアップや継続的な努力を促進できるでしょう。

成果報酬

成果報酬は、個人やチームの業績に応じて支給される、変動型の報酬です。売上目標の達成率や利益貢献度など、定量的な指標をもとに支給額が決定されるため、社員の努力を報酬に反映しやすいことが特徴です。支給形態は多様であり、ボーナスとして支払うケースもあれば、毎月の給与に成果給として上乗せする場合もあります。

インセンティブ

インセンティブは、目標達成時に支給される報奨金です。「新規顧客獲得手当」や「資格取得奨励金」などが該当します。インセンティブの特徴は、明確な目標設定と達成時の即時的な報奨によって、社員の行動を素早く望ましい方向に導けることです。「営業職の新規顧客獲得」や「技術職の資格取得」など、積極的な行動を促進できます。

福利厚生

福利厚生は、住宅手当や社員旅行など、労働の直接的な対価である給与とは別に提供する報酬です。社員や社員の家族に対し、生活の質を向上させます。他社との差別化をはかるべく、失恋休暇やペット手当など、ユニークな福利厚生を展開する企業も見受けられます。 直接的な給与とは異なるものの、長期的な視点での「満足度やエンゲージメントの向上」に役立つでしょう。

基本構成のバランス

報酬制度の各要素(基本給・成果報酬・インセンティブ・福利厚生)について、組み合わせや配分方法は、業界や職種に応じて異なります。たとえば、安定性が重視される製造業では、基本給の比率を高めにするケースが多いでしょう。営業職が主体の企業では、成果報酬の割合を増やすなど、柔軟な設計が必要です。中小企業の場合には、限られた予算内での効果的な配分が求められます。そのため、「業界平均を意識した基本給」「明確な基準に基づく成果報酬」「費用対効果の高いインセンティブ」「独自性のある福利厚生」などを意識して設計するとよいでしょう。上記を総合的に検討したうえで、自社に適した報酬制度を構築することが重要です。

報酬制度設計の5ステップ

報酬制度は、適切な順番で作成することが大切です。ここでは、報酬制度の設計方法について、ステップごとに解説します。

①目的と課題の明確化

報酬制度設計におけるファーストステップでは、まず経営層の視点から、大きな方向性を定めます。報酬制度は会社の土台になるため、経営層のコミットメントと、明確な方向性の打ち出しが必要です。経営戦略や事業計画との整合性を確認し、報酬制度を通じて「どのような組織を実現したいか」を描きます。たとえば「新規事業の強化」が経営目標なら、チャレンジを促す報酬制度が必要かもしれません。「既存事業の安定化」が目標なら、安定性を重視した制度が求められるでしょう。本段階では「人材定着率の向上」「生産性の向上」「優秀人材の確保」など、大まかな課題を整理します。各部門の責任者とも協議を重ね、全社的な視点で方向性を定めましょう。

②現状の把握

経営層の視点で設定した方向性をベースに、現状を分析します。まずは現行の賃金体系や評価方法を精査し、具体的な問題点を洗い出しましょう。すると、「評価基準が不明確」「職務と報酬がアンバランス」といった課題が見えてきます。

社員や管理職へのヒアリングなど、現場の声も集めることで、「評価の仕組みがわかりにくい」「頑張りが給与に反映されない」など、課題が鮮明になるでしょう。
また、業界の相場把握も重要です。具体的には、「同業他社の平均年収」「手当の有無や金額」「福利厚生の充実度」などをチェックします。相場データは複数の情報源を組み合わせることで、より正確に把握できます。地域性も考慮に入れ、同エリアの相場も確認しましょう。

③基本設計

報酬制度の基本設計では、制度の骨格となる「基本給」「成果報酬」「福利厚生」などを定義します。基本給は、職務の難易度や必要スキルを踏まえ、公平な内容を設定します。年功的な要素と成果主義的な要素について、バランスを考慮することも大切です。成果報酬では、短期・長期の両面から、社員の成長促進につながる設計を目指します。四半期ごとの売上目標達成によるインセンティブと、能力を評価する報酬の組み合わせなど、複合的な仕組みも効果的です。福利厚生については、現制度の利用状況や満足度を確認し、社員のニーズに合った内容を検討します。選択型福利厚生の導入や、重点分野への予算配分など、戦略的な制度設計を心がけましょう。

④詳細設計

詳細設計のフェーズでは、報酬制度の運用に必要なルールを定めます。一般的にはまずは賃金テーブルの設計から着手し、職務や等級ごとの給与範囲を明確にします。昇給基準については、「年齢や勤続年数による自動昇給」と「評価による昇給割合」を設定し、両者のバランスを考慮しましょう。成果報酬やインセンティブについても、明確な数値基準が必要です。たとえば、「売上目標120%達成で基本給の10%を追加支給」といった具体的な基準や、顧客満足度指標が目標を上回った場合の報酬額など、適切な指標を策定します。支給時期・支給方法・金額の決定方法なども、明確に設定することで、制度運用における透明性を確保できるでしょう。

⑤導入と運用ルールの策定

新たな報酬制度の導入には、適切な制度設計と、すべての従業員に対する丁寧な説明が欠かせません。全社員を対象とした説明会では、新制度の目的や評価制度と連動したの評価の反映方法基準をわかりやすく解します。管理職向けに、「評価者の心得」や「適切な評価の実施方法」など、必要な研修を実施することもおすすめです。新制度の運用では、評価結果と報酬金額の関係性を説明することも重要です。評価と報酬の関係がわかることで、公平感や透明性につながります。

新たな報酬制度の導入には、適切な制度設計と、すべての従業員に対する丁寧な説明が欠かせません。全社員を対象とした説明会では、新制度の目的や報酬制度の仕組み、評価結果の反映方法をわかりやすく解説します。管理職向けには「報酬制度の考え方」や「評価結果の賃金への反映方法」など、必要な研修を実施することもおすすめです。 新制度の運用では、評価結果と報酬金額の関係性を明確に示すことで、制度の公平性と透明性を確保します。

報酬制度設計で考慮すべきポイント

報酬制度を設計する際には、いくつかの考慮すべきポイントが存在します。主な内容は、以下の通りです。

公平性の確保

報酬制度に不公平さを感じると、「給与を経営者の主観で決めているのでは?」など、不満の声が増えるでしょう。社員の不満は、意欲低下や職場環境の悪化につながりかねません。そのため、職務や貢献度に応じた明確な評価基準を設け、「公平な報酬設計」を行うことが重要です。「チームワーク重視なのに、個人の成果が評価される」など、評価基準と報酬が一致しない場合は、数値化できる評価項目(売上達成率・顧客満足度など)と報酬額を明確にリンクさせます。評価者間での判断のブレを防ぐため、評価者同士の擦り合わせを実施することも大切です。

透明性の向上

報酬制度に不透明さが生じると、社員からの信頼を失いかねません。そのため、報酬制度の透明性を確保することは、社員からの信頼を得るために必要不可欠です。具体的には、評価基準や昇給・昇格のルールを明文化し、社内規程として整備することからはじめます。報酬制度の概要や運用ルールをまとめたハンドブックの作成、定期的な説明会の実施も効果的だといえます。新制度の導入時には、「全社員向けの説明会」や「管理職向けの評価者研修」を実施し、報酬制度の目的や運用方法について、理解を深めてもらうことが大切です。

予算の制約

中小企業では予算が限られる傾向にあることから、予算内で効果的な報酬制度を構築する必要があります。基本給と変動給のバランスを工夫する、金銭的報酬以外の福利厚生を充実など、予算内での最適化をはかるとよいでしょう。優先順位では、基本給を第一に考えます。同業界の平均的な給与水準を調査し、平均水準の8割程度は確保できるよう予算配分をします。次に、会社の業績向上に直結する売上達成手当などの項目を設定しましょう。さらに、資格手当や技能手当など、人材育成に関わる項目を設定します。最後に、福利厚生を残りの予算に応じて導入します。

中長期的な視点

報酬制度は、組織の成長に合わせて、柔軟に進化させることが重要です。短期的ではなく、中長期的な視点で作成しましょう。制度設計の段階から、将来の事業展開や規模の拡大を見据え、柔軟性を確保します。具体的には、基本となる報酬体系は維持しつつ、業績連動部分や評価基準を調整できる仕組みを導入しましょう。昇給・昇格の基準も、組織の成長段階に応じて見直せるよう、定期的に改定する機会を設けます。さらに、キャリアパスと連動した報酬体系の構築も大切です。新たな職種や役職の追加に対応できるよう、報酬テーブルに余裕をもたせます。

制度運用の改善プロセス

報酬制度は、ニーズや環境変化に応じて進化するものです。ここでは、報酬制度の改善プロセスについて解説します。

フィードバック収集と分析

報酬制度の改善では、実際に報酬をもらう「社員の声」を活かすことが大切です。たとえば、半期ごとに社員アンケートを実施します。アンケートでは、「目標設定の難易度は適切か」「評価面談の頻度は十分か」といった具体的な質問を設定しましょう。また、給与データの分析も効果的です。たとえば、「給与範囲のばらつき」「入社年次による昇進スピード」などを数値化して検証します。分析結果から、「同業他社と比べて基本給が低い」「役職手当の金額が不十分」などの課題が見つかれば、基本給テーブルの見直しや、手当額の改定といった具体策を講じられます。

市場分析と制度見直し

経営環境や業界動向は刻々と変化するため、最低でも年1回は、報酬制度の見直しを行うとよいでしょう。見直しでは、業界の給与水準や競合他社の動向を調べ、自社の報酬における妥当性をチェックします。その際に、人事コンサルティング会社の市場調査データなども活用すると便利です。また制度を見直す場合には、段階的に進めることがポイントです。まず経営戦略との整合性を確認し、中期経営計画に沿って報酬制度を見直します。たとえば「デジタル人材の確保」が急務であれば、IT職の報酬レンジを上げる、専門性に応じた手当を新設するなどです。

PDCAサイクルの実行

報酬制度の適切な改善には、PDCAサイクルの活用が大切です。計画の策定(Plan)では、経営戦略との整合性を確保し、具体的な改善案を練りましょう。新たな報酬制度の施行(Do)では、人事部や各部門が連携し、円滑な導入を目指します。運用状況の確認(Check)では、従業員サーベイの実施・部門長へのヒアリングなどを実施します。改善活動(Action)では、評価分布や従業員満足度などの結果を総合的に評価し、改善に活かしましょう。各プロセスの実施時期や担当部署を明確にし、持続的にPDCAをまわすことで、制度の最適化が実現します。

おわりに

適切な報酬制度は、「社員のモチベーションアップ」と「組織の生産性向上」に欠かせません。報酬制度を単なる給与支払いの仕組みではなく、社員の成長と組織の発展を両立させるツールと捉えることが重要です。公平で透明な報酬制度は、社員の意欲を高め、持続的な努力を引き出すでしょう。意欲的な社員が増えれば、組織全体の生産性向上にもつながります。人材の獲得や定着を促進し、企業の競争力強化にも寄与するでしょう。

さらに、企業の成長フェーズや事業環境に応じて、報酬制度も進化させる必要があります。新規事業への参入時には、チャレンジを促す要素を強化する、安定成長期には長期的な貢献を評価する仕組みの導入など、柔軟な対応が求められます。また報酬制度を、環境やニーズの変化に応じて柔軟に進化させることも大切です。定期的な見直しと改善を通じ、社員と組織の双方にとって価値ある制度にすることが、企業の持続的発展につながります。

この記事を書いた人
加藤 英里

新卒で入社したリクルートにて、地域振興事業の立ち上げから推進まで9年間従事。プロモーション企画立案、ご当地グルメプロデュース、イベント主催などの他、講演やセミナー講師も務める。2014年5月から現職。BtoB・BtoC問わず、病院・結婚式場・メーカー・レジャー施設などのWEB集客コンサルティングに従事。

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