;
TOP > コラム > 【保存版】人事制度の作り方とは? 失敗しない設計と運用の完全ガイド

組織開発

【保存版】人事制度の作り方とは? 失敗しない設計と運用の完全ガイド

人事制度の重要性を理解しているものの、「そもそも作り方がわからない」「運用が難しい」といった悩みを抱える企業は多いのではないでしょうか。そこで当記事では、失敗しない人事制度の作り方から運用まで、ステップに沿って解説します。

経営コンサルの支援内容や費用の目安がわかるダウンロード資料

中小企業向け経営コンサルティングの支援内容や費用の目安、支援実績などがわかるダウンロード資料をご用意しています。経営コンサルティングの導入を検討されている際に、ぜひご参考ください。

人事制度とは

人事制度とは、評価や処遇に関する仕組みを体系化したものであり、企業の成長を支える仕組みの一つです。中小企業にとっても、もちろん欠かせない存在です。
慢性的な人手不足がつづくなか、人材の採用や定着に苦戦する企業は多いでしょう。適切な人事制度を設ければ、採用競争力の向上につながります。具体的には、明確な評価基準や昇給・昇進の道筋が示されれば、キャリアパスが見えやすくなり、入社後の不安が軽減します。また、公平な評価と適切な処遇により、社員のモチベーションが高まれば、イキイキと働くことにつながるでしょう。

しかし人事制度が不十分な場合、深刻な問題が発生する可能性もあります。評価基準の不明確さや不適切な処遇によって、不公平さを感じれば、離職にもつながりまねません。深刻な問題を避けるためにも、「適切な人事制度」と「適切な運用」が必要です。

人事制度の基本構成と全体像

人事制度を理解するには、基本構成と全体像について理解する必要があります。詳細は以下の通りです。

人事制度の構成要素

人事制度は、「等級制度」「評価制度」「報酬制度」という3つの柱で成立します。それぞれの制度がバランスよく機能することで、社員の納得につながる人事運営を実現しやすくなるでしょう。
1つ目の等級制度とは、社員の能力や職務の内容、役割、責任範囲などに基づいて、その社員を複数の「等級」に分類する仕組みです。2つ目の評価制度とは、社員の仕事ぶりや成果など、「何を」、「どうやって」評価するかをを定めた仕組みです。例えば、「目標達成度」「業務の質」「チームへの貢献度」などを、規定の評価基準によって判断する流れです。3つ目の報酬制度では、評価結果にもとづき、給与・賞与・諸手当などの報酬を決めるルールを指します。

等級・評価・賃金|それぞれの役割と関連性

3つの制度(等級・評価・賃金)は、連動することが特徴です。なかでも等級制度は、「誰が・何の仕事を・どのレベルで」を明確にした基準であり、人事制度の土台に該当します。

営業部の「課長Aさん」を例にし、各制度を見てみましょう。

【等級制度】
Aさんは課長職として、「部署の売上目標達成」「部下5名のマネジメント」の役割がある。

【評価制度】
等級制度の役割にもとづき、以下の項目で評価される。
・部署の売上目標(1億円に対して達成率120%)
・部下の育成(2名の部下に、目標以上の成果を出す)

【報酬制度】
評価結果をもとに、処遇を反映する。
・基本給40万円+課長の役職手当8万円
・目標達成度120%により、業績給は1.2倍

中小企業における人事制度の現状

多くの中小企業では、明確な基準のない、属人的な評価が行われていることも実情です。社長や役員の主観的な判断で、「Aさんは頑張っているから高評価」「Bさんは苦手だから昇給は保留」などと、評価や昇給が決定されるケースも少なくありません。また、長年の慣習で年功序列的な運用(例:勤続年数が長いほど給与が増加)がつづく事例も見受けられます。

社員の評価について、「上司の主観で決める」や「成果が反映されない」状況では、若手社員のモチベーション低下や、優秀な人材の流出といった問題も発生しやすくなります。また会社の成長によって社員が増えれば、従来のような感覚的な評価では、評価者によって評価に大きなずれが生じ、適切な人事管理が難しくなるでしょう。

人事制度構築のステップ

人事制度の構築には、明確な手順とアプローチが必要です。ここからは、人事制度づくりに向けた具体的なステップを解説します。

①目的と課題の明確化

人事制度づくりの第一歩は、自社における人事制度の必要性について、明確にすることです。たとえば、「若手社員の意欲が低下している」「上司によって評価基準がバラバラ」など、企業が抱える具体的な問題を整理します。

また、「成長を実感できる会社」などの経営ビジョンと、人事施策の整合性をチェックすることも重要ポイントです。両者の方向性が異なると、仮に制度を用意しても、求める成果が得られない可能性もあります。そのため、ファーストステップである「目的と課題」を固める際に、経営ビジョンと人事施策にズレがないかをチェックすることが鍵です。

②現状分析

つづいて、自社の状況を分析します。現状を把握したうえで新制度を構築すれば、自社の実情に合った制度を用意できます。また現状分析の方法として、社員全体へのアンケートや管理職へのヒアリングがおすすめです。社員や管理職に調査を実施する際には以下のような項目を確認するとよいでしょう。

  • 評価方法に対する満足度
  • 給与金額の妥当性
  • 現状の不満や未来への要望

調査結果を分析することで、自社の「強み」や「改善すべき点」も明確になります。綿密な現状把握があってこそ、実効性の高い制度設計が可能になるでしょう。

③基本設計の策定

「目的・課題」と「現状分析」の結果を踏まえ、新制度の基本設計フェーズに移行します。ここでは、人事制度の3本柱(等級・評価・賃金)について、各制度の基本方針を定めましょう。
例:等級制度では、職責と能力に応じて階層を設け、「実務担当(1-3級)」「監督職(4-5級)」等の区分を設けます。評価制度は、公平性と育成を意識しつつ、「業務遂行力(実務担当)」「組織管理力(管理職)」等の評価軸を設定するとよいでしょう。報酬制度は、貢献度に応じた適正な処遇をベースに、職責給70%・成果給30%等の具体的な配分基準を設計します。

④詳細設計と運用ルールの作成

基本設計を踏まえて、詳細の設計を行います。まず等級制度では、各職位に求められるスキルや責任を定義しましょう。たとえば、主任クラスには「担当業務の計画立案と進捗管理を求める」、課長クラスには「部門予算の策定と執行管理を求める」などです。

評価制度では、評価を行う項目を定め、社員のどのような成果や行動を高く評価するのかを等級ごとに設計します。例えば、一番低い等級では基礎的な報連相が出来た場合100点、部長クラスの等級では経営課題に対する提言ができた場合に100点、といった具合です。また、昇降給/昇降格のルールも設定します。報酬制度では、基本給(月例給与の60%)・成果給(同30%)・インセンティブ(同10%)といった配分を決めます。昇給や変動の基準も、具体的に定めます。

さらに、制度をスムーズにすすめるべく、運用ルールを定めるとよいでしょう。評価シートの様式や記入方法だけでなく、年間の運用サイクル(例:4月に目標設定面談/10月に中間面談/3月に評価面談)も定めます。

⑤トライアル運用とフィードバック

新制度の本格始動前に、特定部門で試験運用を行いましょう。全社一斉導入では混乱のリスクが高く、問題が発生した際の対応も困難になるためです。

たとえば営業部門で3か月間のトライアル運用を実施したうえで、現場の声を集めます。「評価シートの記入に時間がかかりすぎる」「目標設定の基準があいまい」といった具体的な課題を発見し、必要な修正を加えていきましょう。試験運用で見つかった改善点を反映することで、より使いやすい制度に整えられます。ただし、完璧な制度を目指すあまり導入が遅れないよう、運用しながら改善する姿勢が重要です。

各制度の詳細な作り方

ここからは、人事制度の設計プロセスを解説します。人事制度の3本柱である制度(等級・評価・賃金)の作り方は、以下の通りです。

①等級制度の作り方

等級制度は、社員の立場や役割を明確にする「会社の骨格」です。新入社員から管理職まで、誰がどのような役割を担い、次のステップで何が必要かを示します。
等級制度の設計では、自社の規模や業態に応じて、まず階層数を決定します。一般的に、従業員100名以下の企業では4~5段階、100名以上の企業では6~8段階程度が適切です。たとえば小規模企業の場合、「一般社員→主任→課長→部長」といったシンプルな構成がわかりやすいでしょう。
次に、各等級を定義します。定義の核となるのは「求められる役割と責任」「必要なスキルと能力」「期待される成果」の3要素です。たとえば主任であれば、「担当業務に加え、若手社員の指導も担当。専門知識を活かしてチーム全体の業務効率向上に貢献する」といった具合です。各要件は「職務記述書」として文書化し、全社員が確認できるようにします。
また昇格条件には、一定の経験年数も必要なものの、単純な年功序列は避けましょう。実力や成果を重視しつつ、経験値とのバランスを取ることが大切です。
制度は、用意したら終了ではありません。定期的な見直しと更新を行い、会社の成長に合わせて進化させる必要があります。

②評価制度の作り方

評価制度は、社員の成長と意欲を支える重要な仕組みです。評価制度の設計では、業績・行動・能力の3つの評価軸が良く使われます。まず業績評価では、部門別の目標値を設定します。営業部なら売上高、製造部なら生産性など、数値で測れる指標を選びましょう。行動評価では、経営理念や行動指針をもとに、評価項目を設定します。「チームワーク」「コミュニケーション力」など、測れる具体的な行動指標を定めることがポイントです。能力評価では、職種別に必要なスキルマップを作成することがあります。たとえば「パソコンスキル」「資格」など、客観的に測定可能な指標を設定します。

これらの評価軸は、認識相違がないよう、具体的に定める必要があるでしょう。たとえば営業職であれば、「月間売上目標の達成率」(業績評価)、「顧客からの信頼度」(行動評価)、「商品知識の深さ」(能力評価)などと具体化します。また、評価基準の透明性も重要な要素です。評価基準がクリアであることで、社員の意欲や信頼度の向上につながります。

③報酬制度の作り方

報酬制度は、企業経営の根幹を支える制度です。公平で納得性の高い報酬制度は、人材の確保と定着に貢献します。給与水準の不満は離職理由の一つであり、適切な報酬制度は、人材流出の防止に役立つでしょう。報酬制度の設計では、まず経営戦略と人事方針をベースに、基本的な賃金体系(固定給と変動給の割合)を決定します。例えば、成果主義を重視する場合は、変動給の比率を高めにし、一般社員は「基本給80%と成果給20%」、係長クラスは「基本給70%と成果給30%」などと設定します。一般的には、役職が上がるにつれて経営への影響力も大きくなるため、成果給の比率を高めるとよいでしょう。ただし成果主義導入には、過度な競争によるチームワーク低下という課題が挙げられます。防止するには、評価を「個人業績70%:チーム業績30%」のように設定し、協調性も重視するなどの対策が考えられます仕組みが必要です。

次に、市場相場や自社の支払能力を考慮し、具体的な賃金水準を決めます。決定した賃金体系と賃金水準をもとに、各賃金項目(基本給・諸手当・賞与など)の詳細を設計します。
社員の意欲向上に向けて、インセンティブ制度の導入も効果的です。目標達成や成果に応じて追加報酬を与える制度であり、目標達成時のボーナス支給や、資格取得の一時金などが該当します。

制度導入後の運用と見直し

人事制度を機能させるには、適切な運用と、ニーズに応じた改善が欠かせません。ここでは、制度を有効に活用するためのポイントを解説します。

運用時のポイント

制度の効果的な運用には、全社員への周知が不可欠です。緻密に制度を用意しても、社員が評価方法や方向性を理解していなければ、制度はうまく機能しないでしょう。説明が不十分なことで、「低評価に納得できない」「他部署と評価基準が違うのでは?」といった声が続出すれば、社員の意欲低下を招く可能性があります。そのため、全社員に向けた説明会を開催するなど、制度を周知する機会を設けることが重要です。説明会では質疑応答の時間を十分に確保し、社員の不安や疑問に丁寧に対応することで、制度への理解がより深まります。また、制度の概要をまとめたハンドブックの配布や、社内ネットワークでの情報共有なども、周知を徹底する有効な手段となるでしょう。運用面におけるもう一つの重要ポイントは、管理職への教育です。人事制度の成否は、「管理職の理解度」に左右されるといっても過言ではありません。評価者研修を定期的に実施し、公平な評価の重要性や評価面談の進め方について、理解を深めてもらう必要があります。
とくに評価面談では、部下の成長を促すフィードバックが求められます。評価結果を伝えるだけでなく、具体的な改善点やキャリアパスについても建設的な対話を行うことが大切です。管理職の理解を深めるべく、「評価に関するガイドブックの配布」「実際の評価事例を用いたグループディスカッション」なども効果的です。また、評価経験の豊富な先輩管理職がメンターとなり、若手管理職を指導する制度を設けることで、実践的なノウハウの承継も可能になります。外部講師を招いたスキルアップセミナーを開催すれば、新たな視点や知見を得るきっかけになるでしょう。

定期的な見直しの重要性

企業環境や社員のニーズは常に変化するため、PDCAサイクルを回し、定期的に見直し・改善を行う必要があります。年に1回程度、社員アンケートや業績データを活用し、「人事評価制度が適切に機能するか」を確認することが大切です。

おわりに:持続可能な人事制度を目指して

人事制度の構築は、ゴールではなく「新たなスタートライン」だといえます。制度の完成度を高めていく過程では、現場の声に対し誠実に耳を傾け、柔軟に改善を重ねることが重要です。形式的な制度にとどまらず、社員の成長意欲を引き出しつつ、一人ひとりの可能性を最大限に引き出す仕組みづくりが求められます。

適切な人事制度は、社員のモチベーション向上や能力開発を促進し、結果として企業全体の競争力強化につながります。また、「優秀な人材の採用」や「定着率アップ」にも寄与するでしょう。
持続可能な人事制度の実現には、経営者の強いコミットメントと、人事部門・現場管理職の緊密な連携が欠かせません。社員と企業がともに成長できる好循環を生み出すため、制度の継続的な改善に取り組むことが大切です。制度を通じて、社員一人ひとりが自身の成長を実感でき、会社の発展に貢献したいと思える環境づくりを目指しましょう。

 

この記事を書いた人
加藤 英里

新卒で入社したリクルートにて、地域振興事業の立ち上げから推進まで9年間従事。プロモーション企画立案、ご当地グルメプロデュース、イベント主催などの他、講演やセミナー講師も務める。2014年5月から現職。BtoB・BtoC問わず、病院・結婚式場・メーカー・レジャー施設などのWEB集客コンサルティングに従事。

関連するおすすめコラム