実際のところ何ができるの? 中小企業経営者のための「ChatGPT」活用法
2022 年 11 月の登場以降、メディアなどでも盛んに取り上げられている「 ChatGPT (チャット ジーピーティー)」。ユーザー数はリリース後わずか 2 ヶ月で 1 億人を突破し、世界中で注目されているテーマといえます。とはいえ、新しいものをはじめるのは勇気がいるものです。
「話題になっていることは知っていても、まだ使ったことはない」
「なんとなく難しそうで手が出せていない」
「すごいことはわかるが、事業への活かし方がイメージできない」
「公開して日が浅いサービスのため、どんなリスクがあるかわからない」
本記事では、上記のようなお悩みを抱えている中小企業の経営者や管理職の皆さまに向けて、 ChatGPT の基本からビジネスへの応用方法をご紹介します。貴社の事業成長や業務効率化の参考になれば幸いです。
中小企業経営者必見! ChatGPT の活用例
ChatGPT を説明する前に、 ChatGPT が具体的にどのようなことに使えるのかをご紹介します。自社でも使えそうな活用例があれば、ぜひ参考にしてみてください。
市場調査
ChatGPT は検索エンジンや辞書の代わりに使うことができます。
単なる検索エンジンとは異なり、
「○○業界の動向を教えてください」
「○○ビジネスに関する PEST 分析をしてください」
といった粗い質問でも回答を得ることができます。
これらの質問を検索エンジンで調べた場合、検索結果を取捨選択してまとめる必要があるため、数時間掛かることもありますが、 ChatGPT であれば数十秒で回答完了します。
表の作成
ChatGPT の回答は文章だけではありません。質問文で指定すれば、エクセルやスプレッドシートに転記できるような表を出力することもできます。
また、質問文を工夫することで、 ChatGPT に手持ちのデータを参考に表を作らせることもできます。 Ctrl+C でコピーして Excel に転記できるため、表作成を効率化することができます。
会議メモの要約(議事録作成)
会議中に取ったメモ書きを社内外に報告するために修正する作業は手間が掛かります。ChatGPT ならメモ書きを要約して議事録に変えることができるため、修正の手間だけでなく社内共有の効率化を進めることができます。
メール文などの文章作成
取引先に対する営業メールや謝罪メールも ChatGPT に作らせることができます。また、請求書のひな形や業務マニュアルなど、社員に任せると時間が掛かる作業についても、ChatGPT なら数十秒で作成することができます。
ChatGPT は優秀なアシスタントになり得る
「市場調査」「表の作成」「議事録作成」「文章作成」は、どれも日常的に発生する可能性が高い業務(作業)です。仮にこれらの業務を社員に任せた場合、 30 分から数時間程度掛かることもあります。 ChatGPT ならこれらの業務を数十秒から数分で完了できることから、大幅な効率化に繋がることがイメージできるのではないでしょうか。
例えば、 1 日 8 時間働いている社員の業務の内、 3 時間がこれらの作業に充てているとします。 ChatGPT を活用することで、週に 15 時間分の業務を圧縮することができるため、単純計算で生産性が 1.5 倍になることが期待できます。人員が限られている中小企業は社員ひとり 1 人の活躍が重要になるため、 ChatGPT は中小企業こそ積極的に導入すべきツールと言えます。
中小企業経営者が知っておきたい ChatGPT の基本
非常に簡単かつ劇的な生産性改善をもたらす可能性がある ChatGPT ですが、より良く活用するためにはコツがいります。ここでは中小企業経営者として最低限押さえておきたい ChatGPT の機能や仕組みを紹介します。
ChatGPT とは
ChatGPT は、ユーザーが入力した質問に対して、まるで人間と会話をしているかのような自然な形式で AI が回答してくれるサービスです。イーロン・マスク氏をはじめとした実業家達が出資している人工知能の研究開発機関「 OpenAI 」により開発され、 2022 年 11 月に公開されました。
ChatGPT は、生成 AI ( Generative AI:ジェネレーティブ AI )と呼ばれる AI の一種です。生成 AI とはクリエイティブな成果物を生み出すことができる AI を指します。最近では人間の仕事や作業をサポートするツールとして活用が期待されています。
なお、「生成 AI = ChatGPT 」ではないことには注意が必要です。生成AIには、ChatGPTのような「テキスト生成系 AI 」のほか、 Stable Diffusion (ステイブル・ディフュージョン)などに代表される「画像生成系 AI 」、 Microsoft が開発した VALL-E (ヴァル イー)に代表される「音声生成系 AI 」などがあります。
ChatGPT の活用状況
アルサーガパートナーズ株式会社が実施した「大企業/中小企業経営者の ChatGPT に関する意識比較調査」によると、大企業の 56.4% 、中小企業の 32.7% が ChatGPT を活用した経験があると回答しています。活用する場面としては大企業/中小企業を問わず「質問・調べ物」が最も多く、次いで「文章の作成・添削・校正」「テキストの要約」「アイデア出し」が多くなっています。
一方で、 ChatGPT の活用を推奨しているかどうかは、大企業と中小企業で大きな差が見られています。
出典:アルサーガパートナーズ株式会社「大企業/中小企業経営者の ChatGPT に関する意識比較調査」
「 ChatGPT の積極的な活用を推奨している」と回答した大企業は 21.8% であるのに対し、中小企業は 3.7% にとどまっており、中小企業は大企業よりも 18.1 ポイント低い結果になっています。また、MMDLabo株式会社が行った「 ChatGPT に関する調査」によれば、 ChatGPT の利用経験率が高い職業は企業の管理職が 23.0% と最も高く、次いで会社経営者・役員( 22.5% )、学生( 18.2% )となったと報告されています。
出典:MMDLabo株式会社「 ChatGPT に関する調査」
これらの報告から、現状 ChatGPT を活用し、作業時間の削減などのメリットを感じているのは、大企業の管理職や経営者が多いことが示唆されます。個人の生産性改善の影響が大きい中小企業こそ、 ChatGPT の積極的な活用による恩恵が多い可能性があるにもかかわらず、本腰を入れて取り組んでいる中小企業は少数にとどまっている可能性があります。
ChatGPT の機能
ChatGPT の機能は非常にシンプルです。プロンプトと呼ばれる命令文(質問文)を入力することで、 AI が指示に応じた回答を作成します。即時性や正確性には難があるものの、基本的にテキスト形式であればなんでも作成することができます。オリジナル文学作品の作成、文章の翻訳、プログラムコードの作成、歌詞やキャッチコピーの作成など、例を上げればキリがありません。
また、 ChatGPT は様々な機能と「 API 」で連携させることができます。API ( Application Programming Interface )とは異なるソフトウェアや Web サービスでの情報をつなぐものを意味します。 API を活用することで、あるソフトウェアが別のソフトウェアの機能やデータを利用できるようになります。これにより、 ChatGPT を活用した新しいビジネスやサービスが次々と生まれています。
ChatGPT の仕組み
ここからはやや専門的な話になります。
ChatGPT は大規模言語モデル( Large Language Model:LLM )を基盤としています。大規模言語モデルとは、深層学習モデルの一種であり、膨大な量のテキストデータを学習することで、人間のような自然な言語生成や理解を実現するモデルを意味します。
ChatGPT が学習した膨大な量のテキストデータは、インターネット上に存在する過去の情報です。このテキストデータに含まれる情報は、単なる辞書的な情報にとどまりません。文法や文脈などの情報も含まれています。そのため ChatGPT は、「青森県は日本の都道府県である」というような情報だけでなく、「○○県と名のつく言葉は『地名』であり、『日本』の『都道府県』である可能性が高い」といった、それぞれの言葉の特徴値から、確からしい情報を統計的に導き出せる能力を持つようになります。
つまり、 ChatGPT は言葉そのものを理解しているというよりも、学習したテキストデータと、そこから読み取れる特徴値をもとに、与えられた命令文に対して、統計的に確からしい回答を作り出すことができるツールと言えます。
ここまで理解すると、 ChatGPT の苦手なことや注意すべきこともイメージしやすくなります。ChatGPT が最新のニュースなどに回答できないのは、学習したデータが 2021 年時点の情報であるためです。参照するデータが過去のものである以上、統計的な手法では答えることができません。また、 ChatGPT が生成した回答に違和感や誤りが含まれることがあるのは、 ChatGPT が統計的な判断のもと、文字をつなぎ合わせているに過ぎないため生じていると言えます。
ChatGPT の活用事例
複数の企業や団体で、 ChatGPT の導入や活用が進んでいます。ここでは、 ChatGPT の導入や活用を決めた企業や団体を紹介します。
活用事例1:パナソニック ホールディングス株式会社
大手電機メーカーであるパナソニック ホールディングス株式会社は、 ChatGPT 導入の先頭を走る企業の一つです。
同社の子会社であるパナソニック コネクト株式会社は、まだ ChatGPT が話題になる前の 2022 年 10 月から、自社開発の AI アシスタントサービス「 ConnectGPT 」を活用した業務改善の取り組みを開始しています。パナソニック コネクトでの活用が盛んになり、他のパナソニックグループの社員からも、 AI アシスタントサービスの要望があがるようになりました。そこで、パナソニック ホールディングスは、パナソニックグループ版 AI アシスタントサービス「 PX-GPT 」を構築し、 2023 年 4 月より国内社員約 9 万人を対象に提供を開始しています。
出典:パナソニック コネクト株式会社「ConnectAI活用実績と今後の戦略 記者説明会」
よく利用されているのは「質問」や「プログラミング」、「文章生成」といった業務分野で、プログラミングや翻訳の領域では高い社員評価を受けています。
出典:パナソニック コネクト株式会社「ConnectAI活用実績と今後の戦略 記者説明会」
実際の質問例としては、技術的な質問のほか、事業のアイデア出し、キャリア形成に関するものなど様々であり、業務上必須のツールでないにもかかわらず、社員の利用率は高く、社員の業務改善に貢献していると考えられます。
出典:パナソニック コネクト株式会社「ConnectAI活用実績と今後の戦略 記者説明会」
活用事例2:ナイル株式会社
マーケティング DX 事業や自動車産業 DX 事業を営むナイル株式会社は、 ChatGPT の利用を社員の福利厚生に組み込んでいます。 2023 年 3 月より、 ChatGPT の最新バージョンである「 GPT-4 」を利用することができるサブスクリプションサービス「 ChatGPT Plus 」の月額利用料を全額補助する制度を全社員対象に開始しました。同社によれば、 ChatGPT 含む生成 AI 活用で社内業務の 30% を削減することが期待でき、年間数億円以上の業務コストを削減に繋がるとしています。
その他にも、「 Nyle Generative AI Lab 」を発足し、実験的な生成 AI の活用や、パートナー企業との協業などを行い、業務の改革と新たな生成 AI 関連ビジネスの創出を目指していくと発表しています。
出典:ナイル株式会社 プレスリリース
「ChatGPT支援制度」を福利厚生に追加
ChatGPT含む生成AI活用で社内業務の30%削減を見込み、「Nyle Generative AI Lab」を発足
活用事例3:横須賀市
自治体である横須賀市も、早期に ChatGPT の導入を決めた団体の一つです。
横須賀市では、 ChatGPT の全庁的な活用実証を始めると発表をしています。株式会社トラストバンクが提供する自治体専用ビジネスチャットツール「 LoGoチャット」に ChatGPT の API 機能を連携させることで、文章の作成や要約、アイデア創出などに活用していく想定です。個人情報や機密情報の取り扱いはなく、あくまでも職員が利用することで業務効率化のユースケースを創出するのが目的と発表されていますが、自治体としては全国初となる実証であるため、今後の動向が注目されます。
出典:横須賀市 報道発表資料「自治体初!横須賀市役所でChatGPTの全庁的な活用実証を開始(2023年4月18日)」
ChatGPT の導入方法
最後に、ChatGPT の導入方法を紹介します。ChatGPT は、インターネット上で使える「 Web サービス」であり、インストールやダウンロードをせずに利用することができます。まず、 ChatGPT 公式ページ( https://chat.openai.com/auth/login )にアクセスしてください。
出典:OpenAI「ChatGPT」
初めて使う場合は、「 Sign up 」をクリックし、 OpenAI 社のアカウントを作成する必要があります。アカウント作成にはメールアドレスか Google 、 Microsoft 、 Apple アカウントが使用できます。メールアドレスで登録する場合は、 8 文字以上のパスワードの設定が求められます。
出典:OpenAI「ChatGPT」
登録したメールアドレスに OpenAI からメールが届くので、メール本文の「 Verify email address 」から登録画面に移行します。名前と電話番号を登録すると、 6 桁の認証コードが記されたショートメールが送られてきます。この認証コードを入力すればアカウント作成は完了です。
まとめ