【中小企業の人事制度導入】③等級制度とは
社員のモチベーション管理や評価などにより、公正な評価と処遇を実現するための仕組みである人事制度。前回の記事では人事制度の仕組みと全体像について解説いたしました。
本記事では、「人事制度は存在するものの、うまく機能していない」「組織拡大に伴い、新たに導入を検討している」「人材育成に課題を感じている」といった中小企業向けに、人事制度を構成する制度の一つ、「等級制度」について解説いたします。
等級制度とは
等級制度とは、等級と役職の定義を定めたもので、評価や報酬の軸となる重要な制度です。等級とは、ランクとも呼ばれ、従業員の能力や職務、役割を区分して序列化したものを指し、役職とは部長や課長といった職位のことを指します。
具体的には、等級数や役職数、等級と役職の関係性(等級=役職とならないこともあります)、それぞれの等級・役職ごとの要件が定義されています。
等級制度にはいくつか種類がありますが、ここでは日本でも一般的な3つの制度について解説します。
等級制度の代表的な種類
・職能資格制度
従業員の「能力」に軸を置いた制度。
企業は、従業員に求める業務遂行のための能力=職能を定義し、その能力に応じて昇給や昇格を決定します。職能で処遇を決定するため、仮に上席のポストがあいていなかったとしても同等の給料を支給することができます。年次に合わせて設定していることも多く、例えば、「3等級:大学卒業程度の能力/知識を持ち、指示された仕事を上司の判断を仰ぎながら遂行できる」のように定めている企業も多くあります。
〈メリット〉
経験を積むことにより処遇がアップする傾向にあるため、製造業のような業種に好まれます。また、職能は職種や職務を超えて設定されているため、ジョブローテーションが行いやすく、ゼネラリスト育成に適しており、終身雇用の時代には積極的に取り入れられていた制度で、現在も大企業を中心に活用されています。
〈デメリット〉
年功序列になりやすい点や人件費が高騰しやすい点です。あらゆる職種に対応した職能を設定すると、その判断基準が曖昧になりやすく、また「基本的に能力は下がらないもの」という認識が強いため降格しづらくなり、年功序列や人件費の高騰につながります。
・職務等級制度
従業員の「職務」に軸を置いた制度。
職務ごとに詳細な「職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)」を作成、その職務ごとに賃金を決定する「同一労働・同一賃金」を原則としています。もとは米国で発達した制度で、日本に導入が検討され始めたのは1990年代以降と言われています。職務記述書には、職種名や職務等級のほかに、求められる職務範囲、行動、知識や資格、経験などが詳細に記載されています。
〈メリット〉
職務の成果でのみ評価が決定するため、年齢や経験などの属人的な要素は含まれず、非常に合理的で評価が行いやすく、主にスペシャリストの育成に向いています。
〈デメリット〉
詳細な職務記述書の作成に手間がかかること、職務が明確に規定されるため個人プレーになりがちで組織が硬直化しやすい点が挙げられます。
・役割等級制度
従業員の「役割」を軸にした制度。
ミッション(役割、使命)を定義し、その役割に応じて処遇を決定するため、別名ミッショングレード制と言います。ここでいう「役割」とは、企業の経営戦略や組織人事ポリシーから作成した「従業員に期待する行動や役割」のことを指し、やるべき仕事を明確に定めた「職務」と比べ、比較的簡素で大きいくくりです。「役職×職務」を役割とする制度も多いようですが、現状固定的な仕組みはなく、役割の定義は企業ごとに様々です。従業員は、設定された役割に応じて自身で目標を設定します。
〈メリット〉
経営理念・経営戦略を人事制度に反映しやすく、従業員の動機付けや協同が促進されやすくなります。また、スペシャリスト/ゼネラリストどちらも育成可能にするなど、企業によって柔軟に設計できる点が魅力です。年功序列になりやすい職能資格制度と比べ、昇給/降格の基準が明確なので、総人件費の抑制にもなります。
〈デメリット〉
経営理念に紐づいているがゆえに、企業ごとに制度内容が大きく変わります。特に「役割」の定義を社内だけで行うことが比較的困難です。運用においては、従業員自身で経営理念に紐づいた目標を設定することになるため、主体性が低い企業では機能しにくくなります。
まとめ
どの等級制度においても、メリット/デメリットがあります。昨今の日本では、職能資格制度と職務等級制度のメリットを掛け合わせたような役割等級制度が注目されており、導入が進んでいる傾向にはありますが、働き方に多様性が生じている中では、やはり「制度ありき」ではなく、「目的ありき」での検討が欠かせません。
当社では、人事制度の導入支援はもちろん、組織課題の整理や明確化といった課題の洗い出しから企業をサポートいたします。
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